終末世界とギャグボール

ロッキン神経痛

終末世界とギャグボール

 人類の戦況は非常に不利だ。

 いや、端から戦いになどなっていなかったのかもしれない。

 今から半年前、異世界からやって来た”異人の王”を名乗る竜頭の男、ヒュドラ。

 奴の持つ力はあまりにも圧倒的な上、従える魔物の軍団には何と近代的な銃火器が一切通じなかった。唯一魔物に抵抗できたのは、古来から伝わる魔法を扱う魔術師たちだった。しかしそれも才能と素養が必要な職業で、絶対数が少なすぎた。

 長年人間同士の戦争に明け暮れていた各国の軍部が、まさか異世界からの侵略に備えているはずもなく、彼らの多くは多勢に無勢のまま逃げ惑い、無惨なる最期を迎えていった。今や人類に、反抗の力はほとんど残っていない。

「アガスティアの父、アレクトドリウスよ、我ら人の子を守りたまえ」

 俺はずいぶん久しぶりに祈りの言葉を口にする。

 こんな信心のない人間でも、結局最後は神頼みになってしまうのか。しかし、人類が受けた打撃と世の中の混乱を思えば、見えない神に頼りたくなるものだろう。

 ヒュドラの存在を世界が知ってからわずか半年の間に、大陸の人口は半減し、地には疫病が蔓延り、怪しげな新興宗教が世界中に乱立している。誰がどう見たってこの世の終わりだ。

「――――!!」

 窓の外からまた悲鳴が聞こえた。

 遠くからは何かが爆発するような音まで聞こえてくる。

 ヒュドラの手先、魔物の軍団がついにこんな辺境の村にまで略奪にきたのだ。多くの村人は既に逃げたが、俺は足の悪い妻とまだ幼い子供を守るため、こうして一人で椅子に腰掛けて玄関を睨んでいる。

 両手に握りしめているのは単発式のライフル銃。

 以前、教会で祝福を受けた純銀の魔弾が装填されているが、魔物相手にどこまで通じるかは未知数だ。

 だから俺は、連中がうっかり我が家を見逃してくれないかと、無理な祈りを続けている。

「アガスティアの父、アレクトドリウスよ、我ら人の子を守りたまえ」

 ドンドンドン!

 突然ドアを叩かれて、情けないことだが銃を構える前に体が反射的に萎縮してしまった。そして数秒の間を置いて、俺は慌てて立ち上がった。異世界から来た野蛮な魔物の兵は、ノックなどしてこないはずだ。椅子が転倒し、はずみで脚が一本根本から折れて転がる。しかし、そんなことも気にせず扉の鍵を開けた。

 ドアの向こうに立っていたのは隣家に住む友人、カールだった。

「ダンテ、酷い顔色じゃないか」

 肩に手斧を乗せたまま、カールは口元で微笑んで見せる。

「一体、どういうつもりだ。連中はすぐそこまで……」

 黙ったままのカールの目は、妙に輝いていた。

「おい、まさか……」

「そのまさかだ! 王立魔術学院が帰って来たぞ!」

 その時、俺は全身の毛が逆立つような興奮を覚えた。

 王立魔術学院! それは我が国が誇る魔術の最高学府だ。半年前、魔物たちの侵攻が始まったばかりの頃にはその言葉を耳にする度言い知れぬ安堵感を感じたものだった。

 彼ら学院の魔術師たちは、誰より早く魔術師の不足に気づき、持久戦で滅亡を待つよりも根本を叩くことを選んだ。つまりは、ヒュドラの本拠地があるとされる異世界に向けて旅立ったのだ。

 精鋭部隊は王宮のベテラン魔術師を含めて五百名弱。それは学院の生徒数の大半を占めた。国中を歓喜に沸かせたあの出発式の派手な式典の様子は今でも脳裏に焼き付いて離れない。

 しかし彼らの状況はその後今に至るまで不明のまま、ヒュドラが送り込む魔物の数も増え続ける一方だったので生存すら絶望視されていた。

 そんな王立魔術学院の魔術師たちが、このタイミングで帰って来るだなんて。

「まさに奇跡だ。神よ、その慈悲深さに感謝します」

 俺は思わず額の前で手を組んだ。

 喜びのまま外に飛び出して、同じように魔術師の姿を探す野次馬と一緒に広場にたどり着くと、そこに青空に翻る真っ赤な魔術学院の旗が見えた。

「そう案ずるな、我らは異世界より、魔物の軍勢を打ち破る力を持って帰ったのだから」

 人垣の向こうから、年老いた一人の魔術師の声が聞こえている。

「……確かに、我らは残念ながらヒュドラの存在する異世界には辿り着けなかった。しかし、迷い込んだ多元宇宙で同じように侵略者相手に抵抗を続ける人類同胞に出会い、この宝珠を授かってきたのだ」

 一体何の話をしているのだろうと、興味本位で人混みをかき分けていくと、王宮付きらしい立派なマントを纏った高齢の魔術師が木箱の上に立ち、その手に持った金色に光り輝く小さな石をかざしているのが見えた。

 宝珠は魔法の力が込められた特殊な鉱石で、普通は一般人が見るような機会など滅多にないものだ。

「この宝珠には全ての理をねじ曲げ、あらゆる運命に逆らう偉大なスキルが封じられているそうだ。あちらの世界の言葉では、この大いなる力をと呼ぶ」

 老魔術師の後ろには、一様に険しい表情をした魔術学院の生徒たちが並んでいた。

 その足元には、魔物の死体が四体転がっている。

 どんな大砲の弾も通さないと噂される、魔物の黒光りした硬い鱗には、魔法で空けた生々しい傷跡が残っている。どうやら村を訪れた魔物は、彼らが片付けてくれたらしい。

 しかし、俺を含め集まった村人たちの表情は不安そのものだった。

 それもそのはず、魔物の死体の側には、その数倍の数の魔術師たちが横たわっていたからだ。

 よく見ればここに居る魔術師の数も随分と少なく、どれだけ多く見ても二、三十人といったところ。

 それは異世界より凱旋した英雄というより、必死に逃げ延びてきた敗残兵という感だった。

 相いも変わらない絶望感に意気消沈する村人と、肉体的にも精神的にも限界を迎えつつある若い魔術師たちを、嘘か真か、怪しく輝く奇跡の宝珠の力を説くことで鼓舞しようとしているのがこの年老いた魔術師という構図らしい。

「でもまあ、ひとまず魔術師さまのおかげで助かったよな……」

 誰かが呟いた言葉に、

「馬鹿言え、これで終わるものか。明日には十倍にもなって襲ってくるに違いない」

 そんな真っ当な意見が返される。仲間が帰ってこなければ、様子を見に来るに違いない。当然考えられるシナリオだ。

「これより、魔術師諸君の中に志願者を求める。この宝珠を身体に取り込み大いなるギャグの力を得ようとする者はないか!」

「はっ! 是非私に!」

 迷うことなく一歩前に踏み出たのは、中でも一際体格の良い大柄な若い魔術師だった。

 宝珠には、時に使用した人間の肉体を破壊する程に強大な力が込められていると聞いたことがある。全く臆することなく、未知の力を取り入れるその勇気。流石は魔術学院の生徒だ。

 その勇気に呼応するかのように、宝珠はより一層美しく輝きだした。老魔術師の指先からは金色の放射する光が放たれ、そのあまりの美しさに、俺はただ口をぽかんと開けて見入っていた。

 年老いた魔術師が大柄な魔術師に宝珠を手渡そうとする、その時だった。

「よろしい、では――――」

 身体中を包むような熱と光が、突如俺たちに襲いかかった。それが、ヒュドラの増援部隊の放った爆炎によるものであることが分かるのは、その数秒後のことだ。

 皆が反射的に顔を伏せたその時、俺だけは爆風の衝撃波で老魔術師の手を離れていく宝珠を目で追っていた。コマ送りのようにゆっくりと動く世界で、四方に光の帯を纏ったその宝珠は、放物線を描いてこちらに飛んできて、そして

 俺のポカンと開いた口の中に飛び込んだのだった。

「んぐぐっ――――!?」

 突然の出来事に、俺はあろうことか、そのまま宝珠を飲み込んでしまった。

「なんだ、あの大軍勢は……まさか、はめられたのか」

 青ざめた顔でそう呟くのは、その場で腰を抜かした老魔術師だ。先程の爆炎の直撃を受けた者の骸がいくつも転がっている。辺りは阿鼻叫喚だった。

 散り散りになって逃げていく村人たち。そして老魔術師を守るように一箇所に固まる若き学院の魔術師たち。そして、

「ングオオオオオオ」

 はるか前方には、大地を震わせるようなうめき声と共に、黒い鱗を纏ったヒュドラの魔物の軍隊が列を成して歩いてくるのが見えた。

 彼らの足踏みで大地が揺れている。それは、小さな辺境の村を襲うにはあまりにも過剰な兵力に見えた。そして、数体の魔物相手に沢山の仲間を亡くした魔術師たちが、あの軍勢に敵うはずもない。

 魔術師たちは皆、どこかさっぱりとした諦めの表情を浮かべていた。

「ここは……俺たちが食い止めます」

「老師は王宮に戻り、残っている魔術師たちを集めてください!」

「お前たち……」

 老魔術師が止める間もなく、彼らはお互いの目を見て頷き合った。そして、ある者は炎を纏った剣を手に、またある者は地中より沢山の使い魔を出現させ――――各々が磨き上げた魔法の最上級のものを手にして、迫り来る魔物の軍隊に向かい真っ直ぐに駆けていく。

 先に待つものが確実な死だとしても、大義の前であればそれを些事と笑ってみせる覚悟が彼らにはあったのだ。


 ――――そんな中、俺は老魔術師の横で四つん這いになって、今飲み込んだ宝珠をなんとか吐き出そうと口に人差し指を突っ込んでいた。

「オエーー! オエーーッ!」

 くそ、宝珠の代わりに胃液しか出ない。最悪だ、世界を救うかもしれない宝珠をこんな農民の男が飲み込むなんて。

「お主、まさか……」

 そんな俺の様子から、やっと手元から消えた宝珠のありかに気づいた老魔術師が驚愕の表情を浮かべていた。

「す、すみません! 今すぐ出しますから!」

 焦った俺はズボンを下げて、下半身丸出しのままその場で力み始めた。

「な、何をしとるんじゃ!」

「目的はひとつ、ウンチと一緒に宝珠を出すのです」

「ばっかも~~ん! だからって野グソをするやつがあるか~~っ!!!」

 何故か笑顔で両の拳を振り上げる老魔術師。

「はっ……今、わしは何を……」

 我に返ったように頭を振り、立ち上がって俺に向き直る。

「お主、本当にギャグの宝珠を身に取り入れたのか」

「残念ながら、そのようです。宝珠を出すことが出来ないなら、いっそ私を丸ごと食べてくれませんかっ?」

 俺は両ポケットから取り出したフォークとナイフを老魔術師に差し出した。しかし渋々受け取った老魔術師は、困った顔を浮かべるばかりだ。

「いや、わしは年じゃから、お箸の方が使いやすくて……ってオーイ!(笑)」

 などと老魔術師が手を九十度の角度に曲げている間に、俺はその場に落ちていた木の枝から一膳の塗り箸を作り上げた。近年の機械を使った大量生産によるものに比べれば少し不恰好にも見えるかもしれないが、伝統の中に息づく温もりとでも呼ぶべきものが感じられる出来だった。

 塗り箸を老魔術師に渡し、ちょうど身体のサイズぴったりの大きさの皿が地面に置いてあったので、その上に仰向けで寝転ぶ。

「レッツプリーズイートミー!(宴の始まりだ!)」

 すると老魔術師は大変に慌てた様子で寝転ぶ俺の肩を掴んだ。

「……お主は今、何をしたのか分かっているのか!?」

「はい?」

「何もないところから物質を生み、平気な顔をしているのだぞ! こんな無茶な魔法はこの世に存在しない! これが意味することを分かっているのか!?」

「つまり俺がギャグの宝珠を飲み込んで得た力は、無から有を生み出し全ての理をねじ曲げてあらゆる運命に逆らうことの出来る過去に例を見ない偉大な魔法であり、もはや神のごとき人間になった可能性が高いということですね?」

「あ、分かってるんじゃのう……」

 老魔術師は露骨に拗ねていた。

「しかし、そうと分かったらウダウダ無駄話してる暇はありませんね!」

「無駄話……」

「ええ、ご老人はここで待っていてください。私は今やるべきことをやって来ます!」

 そして俺は踵を返すと、自宅に戻って玄関口に倒れた椅子を拾い上げた。これ、実は気にしてないフリして地味に気になってたんだよね。

 偉大な力を手にした俺にとって、もはや足の折れた椅子など恐るるに足らない存在だ。折れた足はもちろん、この際だから背もたれのがたつきも調節し、ついでに手すりも取り付けてみた。

「お父さん、もうだいじょうぶ……?」

「あなた、魔物はどこに」

 心配そうな顔で妻と子が奥の部屋から出てきたので、それぞれの担当箇所を決めて親子三人で椅子全体にやすりがけを始めていると、コンコンと小さなノックが背後から聞こえた。

「いや、もう、本当にお願いします!!」

 振り返ると、今にもこぼれ落ちそうな涙をぷるぷる震わせながら老魔術師がこちらに手を合わせていた。



 魔物と人間の力の差とは、大半が身に纏う分厚い鱗と圧倒的な筋肉量によるものである。どれだけ鍛え上げた魔法の力も、圧倒的な物量で迫り来る魔物たちの暴力を前にしては時に無力だ。

 それは、多次元宇宙に迷い込み、筆舌に尽くし難い冒険を経てきた若き魔術師たちにとっても例外ではなかった。

「バニシングブレイドッ!」

「ヘカテリオスファイアーッ!」

 極限に磨かれた魔法によって、貫き、燃やし尽くしても、ヒュドラの忠実な下僕であり人間のような感情を一切持たない魔物の群れたちが、押し寄せる濁流のように次々に彼らに襲いかかり、その命の灯火を奪っていく。

「もはやこれまでか……老師、どうかご無事で!」

 抜けるような青空を仰ぎ見て、両手を胸の前で構えるのは、広場で真っ先に宝珠の使用を志願していた一際大柄な魔術師だ。

 周囲を魔物たちに取り囲まれ孤立した彼は今、ありったけの魔力を両の拳から心臓に注ぎ込み、即席の人間爆弾に変わろうとしていた。それはシンプルかつ破壊力のすさまじい、ゆえに魔法と呼ぶにはあまりにも無骨な技だった。

「……母さん」

 口元から本当の最後の言葉が、そして目から一筋の涙がこぼれ落ちる。

 ぼやける視界の先、死の間際に彼が見たのは、

 青空に両手を広げ飛んでいる農夫とその背中に乗った老師の姿だった。

「えっ」

 ドカン

 閃光と粉塵が辺りを包み込む。爆風で魔物たちは、まるで木端のように吹き飛ばされて空の彼方に消えてキラリと星になった。

 すりばち状にえぐれた爆心地の中央には、全身真っ黒、髪型はアフロ、口から黒い煙を吐く魔術師の姿があった。黒いシルエットに目と真っ白な歯が浮かび上がって、まるで影絵のようだ。

「えええええええっ!?」

 まず自分の命があることに驚き、自らの体を見回す魔術師。そんな彼の上空から、両手を広げ足をぴっちり閉じた農夫がゆっくりと円を描きながら降りてくる。

 ズザザーッ

 地面にそのままの姿で着陸した農夫の背中から、何故か神妙な顔をした老魔術師が降り立った。

「老師、一体、これはなにごとですかっ! 何故この男は翼もなしに空を飛び……そして私は命を失っていないのです!?」

 勢いよく問いかけるアフロ魔術師に対して、老魔術師は少し俯きがちに答える。

「もう、そういう細かいことはどうでもいいんじゃ」

「細かいことではありません! その男、ギャグの宝珠を取り込んだのでしょう。一体ギャグというのはどのような魔法なのです!」

「もう倒した」

「はい?」

「今、この男と一緒にヒュドラを倒してきた」

 老魔術師は決して冗談を言う人ではない、それをよく知っているアフロ魔術師は、ただ口をパクパクと開閉させることしかできない。

「……この農夫が……異人の王、竜頭のヒュドラを……?」

 やっと絞り出す言葉は細かく震えていた。

「……しゃ、灼熱の息を吐き、睨んだ者を即死させ、死して尚彷徨うアンデッドに変化させ未来永劫魂を縛る恐ろしい力を持つあのヒュドラをですか!?」

「うん……」

 そう言ったきり、しゃがみ込んで指先で土いじりを始めてしまう老師。その横で着陸の姿勢から立ち上がった男の右手には、よく見ると竜人の生首が握られていた。

 見開かれた真っ赤な瞳。大きく空いた口には鋭い牙、そして額に十字の傷が刻まれている。その姿が意味することを、この世界で知らない者はいなかった。

「ヒ、ヒュドラ!?」

「おう、わしがヒュドラやけど」

 生首のヒュドラは喋った。

「いやーお互いベストを尽くした、いい勝負だったな!」

 地面に丁寧にヒュドラの生首を置いた農夫が、爽やかな笑顔でそう言い放つ。

「いや、最初ダンテちゃん見た時は余裕でイケると思ったんやけどなぁ」

「私だって勝てるかどうか、自信なかったんだけどねぇ〜」

「うわ嫌味やわ、絶対勝てる思って来てたやん!」

 目を細めるヒュドラ。農夫ことダンテは少し考える仕草をしていた。

「いや、でも正直、最後の召喚獣が出るまではほぼ互角だったよね」

「確かに、あれが決定的やったなぁ! 見た瞬間にもう負けてたもんな、あれ……」

 二人は息を揃えて言う。

「「子ネコのお寿司屋さん」」

「子ネコのお寿司屋さん!?」

 呆然とするアフロ魔術師に、ヒュドラは苦い顔で解説した。

「まずハチマキを巻いた可愛い子ネコがおってな、それがよちよち二足歩行で歩いてくるねん。で、頑張ってお寿司を握るんにゃけど、あ、わし今ニャって言ってもうたな! ハ! ハハ!」

「でな、肉球で握るもんやから上手に握れんのや。シャリがポロポロ溢れてもうて。それを頑張れ、頑張れって応援してる内にな……」

「このザマよ」

 ヒュドラは白目を剥いて、長いベロを口から出してみせた。

「いくらなんでも油断しすぎだって〜」

 和気藹々と戦いの様子を語り合うダンテとヒュドラを前に、いつしかアフロ魔術師は老師と並んで体育座りの姿勢で土をいじることしか出来なくなっていた。

 そして、彼らはダンテの背中に乗せられて、軽妙かつ爽やかなBGM(https://www.youtube.com/results?search_query=%E6%9D%BE%E4%BB%BB%E8%B0%B7%E7%94%B1%E5%AE%9F+%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%82%B8%E3%83%A5%E3%81%AE%E4%BC%9D%E8%A8%80)と共に王宮に向かった。

 その後、すっかり反省しきったヒュドラが、奪ってきた全ての命を(ダンテの考えたあまりにも馬鹿馬鹿しい方法で)元通りにすることを各国の首脳たちに提案したことで、どちらかが絶滅するまで続くと思われた魔物と人類の争いは怒濤の決着を迎えることとなった。

 結果、大陸の人口は倍増し、人間同士の争いも消え、地に蔓延る疫病と怪しげな新興宗教は姿を消して空には虹がかかり蝶が舞い踊り花は咲き乱れた。

 魔物たちの多くは元の異世界へと戻ったが、生首のヒュドラを始め、多くの魔物たちは人と共生する道を選び、未踏の荒地を耕して新たな国を作り、多様性溢れる今日のアガスティア世界を作り上げたのだった。



「ん、んんっ? なんか今日、喉がイガイガするなぁ」

 今日もダンテは、翼も生えていないのに青空を悠々と飛んでいる。

 何故彼が飛べるかというと、心の底から飛べると信じきっているからに他ならない。飛べないと信じている人間は、決して飛べない。半信半疑の人間は、飛べたり飛べなかったりするかもしれない。

 同じように、彼はこの世界の平和を信じきっている。

 とりあえず、今のところは。



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