"変わりたい"彼女
「じゃあ、これでカウンセリングは終わりかな」
「ありがとうございました。あの、木曜日も来ていいですか?」
「えぇ…もちろん」
俺は、微笑みながら返答した。
彼女は嬉しそうに立ち上がり扉に向かった。
「私、先生に話せて良かったです。心が身軽になりました。」
と、彼女は言いお辞儀して会議室を出ていった。
約1時間会話をしてカウンセリングが終わった。あっという間だった。
いつもなら長いなとか早く帰りたいとか相手のことなんて考えてない俺が…。
俺は、なぜか彼女と話していると心が落ち着く。
いつもの最低最悪な自分はどこにいったんだろうと思ってしまうほどに…。
この日は彼女以外のカウンセリングはなく、俺はそのまま学校を出て病院へと向かった。
俺は、車を走らせながら今日彼女との会話を思い返す。
「先生、私、変わりたい…。今の自分を変えたい」
「……花宮さんはどう変わりたいの?」
「ん-…素敵な人になりたい。周りから信頼されて、頼りにされる人になりたい。そんな自分に変わりたい…。」
「……いいんじゃない。そうやって理想の自分があることはいいことだよ。」
彼女が変わりたい自分は、俺に当てはまっている気がした。だが、俺は素敵ではない。
親がしいたレールただひたすらに走った人間。
親のおかげで俺は周りからの信頼があり、頼りにされている。
だが、それは自分の力で積み上げてきたものではない。
「ほんと?」
「ほんとだよ。」
「良かった。理想の自分って結局理想なだけで、ほんとうにそういう風になりたいと思ったら自然となってるものだと思ってたから…」
「そんなことない。自分の頑張りで自分は……」
"変われるんだよ"その言葉が喉元でつっかえた。
言えない、言える立場の人間じゃない。
いつもならすらすらと相手に寄り添う言葉が言えるのに…。
彼女には言えない。
こんな無責任な言葉を。
「先生?大丈夫?」
彼女は心配そうに俺の顔を覗き込んだ。
「あぁ…大丈夫。ちょっと喉がつっかえただけだよ」
「そっか。なら、良かった」
彼女は優しく微笑んだ。
その微笑みを見て彼女はもうすでに素敵な人だと思った。
「花宮さんはもう、素敵な人じゃないか」
「え?どこがですが?」
「だって、今日初めて会った人を心配してくれただろう?それだけもう素敵な人だよ。」
「そうですかね?急に話さなくなったら心配しません?普通に」
「この世にはそんな普通しない人(俺)だっているんだよ」
まぁ、それが俺なんだけどね。
「えぇ…そうですかね?」
「そう、だからそんな人(俺)と比べると、花宮さんはとても素敵な人だよ」
「へへ…嬉しいです。そう言ってもらえて。」
そんな彼女との会話を思い返しているとあっという間に病院に到着していた。
いつも長く感じる道路や、信号に気づくことなく。
むしろ今日は、長い信号は変わるのが速かった気がする。
"変わりたい"彼女の言葉を思い出した。
俺も"変わりたい"。
その言葉を胸に思いながら車を降りた。
君の心に1つの光が灯るまで 海原鈴 @umiharasuzu
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