"変わりたい"自分
湿ったい空気が偏頭痛をよぶ6月。
俺は、毎週火曜日と木曜日に日比原高校のカウンセラーとして高校を訪れていた。学校のこういったカウンセリングは人が来ることはあまりない。プリントとか配られても横目で無視されるぐらいだしな。
だが、久しぶりに俺はある1人の女子生徒のカウンセリングをすることになった。その生徒の担任から聞くに、その子は真面目で明くる、だれとでも仲良しで元気な子だと聞いた。
そんな子がカウンセリングか…
まぁ、1年生だしクラスに馴染めないとかそういった理由だろう。いつも通り話を聞いて親身になり、少しでも心が身軽になる言葉をかければいい。
そんなことを思いながら腕時計を見た。
時刻は3時30分。
そろそろ学校へ向かおう。
俺は、椅子にかけてあった白衣と鞄を持って家を出た。
学校に到着し、2階の小さな会議室へと向かった。
時刻は4時前。
そろそろ生徒が来るだろう。
俺は、椅子に座り生徒が来るのを待っていた。
数分すると、扉が"コンコン"となった。
「どうぞ」
「失礼します…」
「こんにちは。どうぞ、席に」
俺は、彼女を自分と机を挟んで向かい側の椅子に座っていいと促した。彼女は会釈をして席に座った。
彼女の様子を見ると緊張をしているようだ。
「まず、お名前を聞いてもいいかな?」
「あ、えっと、花宮鈴です。」
「花宮さん。なにか、悩みがあるのかな?」
そう聞くと、彼女は少し沈黙したあとに口を開いた。
「先生、私、"無能"なんです。」
「え?」と、思わず声がでそうになった。
"無能"という言葉。
まさかすぎる言葉に言葉を失った。
「す、すみません。急にこんなこと言われると先生でも困りまよね。」
慌てたように彼女は謝る。
「い、いや、大丈夫だよ。なんで、無能だと思うの?」
「……私、いつも友達といると考えてしまうんです。」
そのまま彼女は言葉を続けた。
彼女の周りの友達は勉強ができる子、運動ができる子、絵が描ける子、面白い子、可愛くて性格がとても良い子がいるらしい。
そんな友達と比べてしまい自分は"無能"なんだと思ってしまうらしい。
「私、勉強はそこそこだし、運動できないし、可愛くないし、性格もすごく良いかと言われるとそこまでだし、そんなことを友達といると毎日考えてしまうんです。それで、時々友達が嫌になるんです。」
「こんことまで考えてる自分って、最低ですよね…」
彼女は鼻をすすって話した。
「君は、無能じゃない!それに、最低でもない!」
彼女話を聞き終わったあと、俺は自分でもびっくりするほどの大声をだしていた。
「え、先生?」
彼女はきょとんとした顔で俺を見ていた。
「あ、ごっごめんね。急に大声をだして」
「いっいえ、そんなはっきり"無能じゃない"って言ってもらえて嬉しかったです。」
彼女は笑みをこぼした。
"救ってあげたい"。
瞬時にそう思った。
これまで、真剣に人の心に寄り添ったことがない俺が。
それに、無能で最低なのは俺だ。
カウンセラーなのに、真剣に心に寄り添ったことがないなんて…。
自分に呆れてしまう。
だが、いつか、いつか変わりたいと思っていた。
こんな性格がクズで最低な自分を…
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