時は明治。妓楼の次男、涼次郎は金魚をこよなく愛する青年でした。体の弱さの故に、望んだ道も諦めなければならかった彼が出会ったのは、雄の金魚に追い回される美しい雌の金魚。哀れに思った彼女を買ってしまったことから、彼の日常は少しずつ狂い始めて——。
ままならない現実への閉塞感と、美しい金魚へ向ける偏愛。兄に虐げられながらも表面上は穏やかであった日々が、少しずつ少しずつ不穏な影に覆われていくのがひしひしと感じられて、あっという間に最後まで読み切ってしまいました。
迎えた結末は、恐ろしいもののはずなのに、そのあまりの純粋さゆえに、どこか物悲しく、とても美しい余韻が感じられました。
背筋がぞくぞくしてしまうけれど、秋の夜長にぴったりの、恐ろしくも儚く美しい物語です。
夏の京都祇園、金魚売りの声が響く街に主人公の青年が出かけるところから物語は始まります。
病弱な体質故に夢を諦め、祇園でも人気の遊郭を営む実家に戻り飼っている金魚を眺め見る日々。そこに、ふと目についた紅白まだら模様の金魚が仲間入りし……。
彼が大切に部屋で飼い始めたその金魚、秋の夜に出逢った不思議な街娼。
点と点が繋がり、ラストに向けて一気に真実が見えてくる展開。
華やかな花街の光と陰、風情ある夏の明治後期の祇園。
まるで金魚のひらひらとした美しい尾びれが舞う様子まで、浮かんでくるような美しい描写がお見事でした。
仄暗い、ゾッとするような中に見え隠れする縋るような愛の物語。
惹きこまれて一気に読んでしまいました。
永遠に醒めない夢とは果たして……?
その幕引きは是非アナタの、その両の眼でしかと見届けてくださいませ。