第十七話「罪滅ぼし」

健司はこれからどうしたものかと考えた。


そろそろツルオがホテルにやってくる頃だろう。しかし事は想像以上に大きかった。


これ以上ツルオを巻き込むわけにはいかない。健司はそう思った。巻き込まれたのは健司のほうだったが。


健司は上着を脱ぎ、奥村に着せた。そして奥村の首を切り取った。


これでツルオは自分が死んだと思うだろう。ツルオのことだ、詳しくはビビッて見れないだろう。


健司は決着をつける覚悟を決めた。


自分は見て見ぬふりをした。止められたかもわからないが、止めようともしなかった。


それだけで自分は同罪であると思った。


そして健司は自分が正義なのか、悪なのか、サヤマが悪なのか、正義なのかがわからなかった。


しかし、もう覚悟は決めた。


ツルオの妻と子も、ベンタ君にやられた一般の人たちは関係がない。正義や悪などといった問題以前である。


サヤマの家は覚えていた。


心臓がドクドクなっている。手には奥村のロボットが持っていたナイフが握ってある。


すべて終わらそう。


このままきれいに終わるんだ。


サヤマの家は鍵がしまっていなかった。まるでこちらを招き入れてきているような気がしたが、気にしないことにした。


中に入ると、そこにはただの部屋が広がっていた。


怪しいものなど一つもなかった。


無論、健司も怪しいものをそのまま出しておくほど相手が馬鹿ではないことも想定していた。


すこし物色する。本棚には漫画がたくさんあった。「ONEPIECE」、「DRAGONBALL」などといった漫画のなかに、その漫画は並べられていた。


(20世紀少年……)


健司が子供のころに実写映画がやっていた。当時健司はそこまで小さくなかったが、臆病だったために途中で見るのをやめた。


主人公の名は「ケンヂ」。


パラパラと漫画を開いてみると、なにやら手書きの文字が書いてあるページがあった。


字はつぶれていてすぐには読めなかった。


その時、後ろから声がした。


「健司くん……いらっしゃい」


見知らぬ成人男性がいた。……いや、狭山である。健司は確信した。


「あ、ああ……。久しぶりだな」


健司はあくまでも平然を装った。


「勝手に入って悪かったな……」


「いいや、全然いいよ。 それよりなにか用なのかい?」


「まず……謝ろう……学生時代、虐めて悪かった」


サヤマは全く表情を変えない。しかしずっと微笑んでいた。


「え? なんだい……そんなことか……。というか君はあまり虐めてこなかったじゃないか……」


「いいや、阻止しなかった……しようともしなかったんだ……」


「まあ、謝ってくれてうれしいよ、用はそれだけかい?」


また心臓の鼓動が早まる。


「お前が……ベンタ君なんだろ……」


もはや確定的である。しかし、サヤマはすぐには答えずこういった。


「その本棚……どかしてみようか」








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

玄武の少年 バクチ @rappen

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ