告白する時間は今じゃない

大水浅葱

告白する時間は今じゃない

 恋愛とはスピードが命。恋愛の心は心の奥深くで思い続けたところで熟成はせず、発酵もせず、ただ劣化する。それを俺は知っていた。小学の時も、中学の時も、好きである心を身に秘めれば秘めるほど告白はできなくなっていった。

「おはよう! ケイちゃん!」

「おはよう高田。」

 だからこそ、高校では好きの気持ちはさっさと伝えてしまうことにした。ちょうど今日、この髙田ちゃんに告白するつもりだ。

 俺の席は高田の隣。朝、俺より早く学校に来ていた高田は、俺を見るなり挨拶をしてくれた。この前二人で遊びに行った。そろそろ好感度が上がってきた頃合いだ。

「ねぇ聞いて! 聞いて聞いて! 私、鷹野と付き合ってるんだよね。」

 しかし、どうやら高校でもその気持ちを胸の奥へしまうことになりそうだ。

「え、マジ? 全然気付かんかったわ。」

 本当に気付いていなかった。彼女が誰かと仲良くしている姿を見る度、嫉妬の心を持たないよう心の感度を下げて、下げて、気付かないようにしていたことが裏目に出た。

「その前はさ、知っての通り中田と付き合ってたんだけどさ。いや、中田は友達としてはいいけど恋人としてはダメだね。」

「あー、確かに。度胸とかなさそう。」

 いや、それも初耳だ。え? 中田と付き合っていたのか。俺、昨日アイツと遊んだぞ。俺、アイツに恋愛相談したことがあるぞ。アイツ、どんな気持ちで俺の恋愛相談受けてたんだ?

「でさー、聞いてよ。鷹野がね。昨日突然女装写真送ってきたんよ。」

「はい?」

 待て、気持ちの整理をさせてくれ。押し寄せる情報、感情の波。それも、寄せては引くのでは無く、寄せて、寄せて、寄せてくる。俺に考える暇は与えてくれない。

「実は鷹野、コスプレとかするのが好きみたいでさ。」

「はぁ。」

 朝の時間でまだ頭が働いてない。良い返答が思いつかない。今日、告白するつもりだ! と思っていたことなど完全に吹き飛んだ。

「昨日アイツんち行った時に私、それ初めて知ってさ。普通に女装してるとこ撮ったんだよね。そしたらさ、今日は処理してないとかで、すね毛ボーボーでさー。笑っちゃったよ。」

「ははっ! それはやべぇ。え? おもしろ。」

 楽しそうに笑う高田。残念ながら俺には、そんな彼女に、こんな話を聞いたその日に、告白を噛ます勇気なんて湧いて来なかった。


 少し時が過ぎた。鷹野と高田は未だに仲がいい。喧嘩して別れて、鷹野が未練タラタラで復縁して、喧嘩して別れて、鷹野が未練タラタラで復縁してを繰り返していた。

 喧嘩して別れたタイミングが四度あった。俺はその都度、その間に入ってやろうと企んだ。ただ、大きな問題があった。それが高田の学校サボり癖だ。

 喧嘩して別れたあとの数週間、彼女は学校に来ないのだ。告白しようと企んだところで、学校に来ないのならその意味は無い。俺は彼女の家を知らなかったのだ。

 今日も高田は来ないのだろう。喧嘩して別れたと聞いた。鷹野からの情報だ。

 今なら、今なら、俺は彼女と付き合える。告白すれば落とせる。傷心の彼女なら、落とせる。できる。俺ならできる。そう思うのに高田は来ない。思うだけなら自由だ。だって来ないのだから。

「おはよー! ケイちゃん!」

「お、高田! おはよう! 珍しいな。傷心タイムはもうおしまいか?」

「いやー、バレてたかー。まぁね。ちなみに学校へは一律生理ってことで報告してるから。」

「その情報今言う必要あった?」

 久しぶりの高田との会話で俺は舞い上がる。告白するつもりだったなんて、もう忘れていた。

 ああ、楽しい

「あ、そう聞いて聞いて。ねぇ聞いて! 私、鷹野と昨日ヤッたんだよね。以外に腰痛くなるもんだね。」

 そんな身も蓋もない報告あるだろうか? そんな体験をしたことが無い俺が、その報告を聞いて、それでも今日告白できると思ってるのだろうか。数秒前まで楽しかった俺の心はどこへ迎えばいいのか分からなくなった。


 俺はまだ諦めていなかった。あれ以来、ヤッた日はヤッたと報告されるようになった。何故? 最初報告された時から、今日にいたるまで未だに思っている。いや、本当になんでだろう? そして、僕にはそれを誰かに相談することなんて出来なかった。誰にも言えない。誰に相談していいのか分からない。

 それでも俺は諦めきれなかった。まだ俺にも希望がある。隙さえあれば突いてやる。そう思って数ヶ月、高田は鷹野とまた別れたようだ。誰に何を言われた訳では無いが、俺にはわかる。鷹野の落ち込み具合、そして高田がしばらく学校に来ていない。いつものサボり癖。これは確実に別れた。

 三度目の正直というやつだ。高田が次学校に来たらその日は、俺の告白する日だ。

 高田、いや、優里! お前と残りの高校生活を過ごすのはこの俺だ。

「やぁやぁ、ケイちゃん。」

「あ、高田。久しぶりだな。」

「だね! 聞いて聞いて! ちょっと聞いてよ。彼女出来た。」

 俺はもしかしたら最初から間違っていたのかもしれない。

 でも僕は思ってしまったんだ。「告白の時間は今じゃない」ってな。

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告白する時間は今じゃない 大水浅葱 @OOMIZUASAGI

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