第27話 予想外のパートナー

 一通りの授業が終わった放課後のホームルーム。いつもなら先生に挨拶をして帰る僕達だけど今日は違う。

 全員が席に着き、黒板に文字を書く担任の先生の事を見ていた。

 


「それではこれから来週行われる校外実習のペアを決めます」


『ざわざわざわ』


「みんな静かにしなさい!! 質問がある人は手をあげる!!」



 クラス中が騒ぐ中、僕は望と目配せをした。

 望もそれに答えてくれる。朝の約束を忘れていないみたいだ。



「(莉音に望とペアを組むって約束した手前、出来れば望以外と組みたくないな)」



 望と組みたい人が多そうだけど、臆せずお願いをすれば問題はないだろう。

 既に望とペアを組むって話は事前に打ち合わせてるので大丈夫なはずだ。



「先生!」


「はい、相馬さん。何か質問ですか?」


「実習のペアってどのように決めるんですか? 何か決まり事があるなら聞きたいです」


「いい質問ね。ペアは基本好きな人同士で組む事になるけど、上位ペアと下位ペアで明らかに差がある場合は私がペアを変更するつもりよ」


「そしたら基本好きな人通しでペアを作れるんですね」


「その認識で大丈夫よ」


「わかりました。ありがとうございます」



 つまり先生の立場からも基本的には好きな人同士でペアを作っていいという事だ。

 だがあまりにも実力差がつく場合は、その都度先生が入れ替えると言う方針らしい。



「(望はこのクラスでも2番目の実力の持ち主だ。だから僕と組んでも違和感がない)」



 僕と望がペアを組む可能性は高い。例えバラバラのペアになったとしても、クラスで1番下の実力の僕なら、望と変更してもらうことが出来るはずである。



「つまり僕と望のペアで組んだ場合は、変更される可能性は限りなく低い」



 いや、むしろないと言ってもいいだろう。

 基本ペアは全員平均的になるように設定されるようにすると先生が言っているので、 学内でも有数の魔法士の望と落ちこぼれの僕だったらちょうどいいペアになるはずだ。



「それでは各自ペアを決めて下さい。出来たペアから先生に報告をお願いします」



 先生の合図の後、辺りが騒がしくなる。クラス中の人間が動き、先生の前にはどんどん列が伸びていく。



「こうしている間にもペアがどんどん決められていくから急がないと」



 黒板にはペアの名前がどんどん書かれて行く。早くしないと望とペアを組めないかもしれない。



「僕も望の所に行かないと」


「如月君」


「つっ、月城さん!?」


「今度の実習のペアだけど、私と組みましょう」


「えぇ~~!? 月城さんが僕と組むの!?」


「私が貴方と組む事ってそんなに驚くことなの?」


「驚くに決まってるよ!! 学年でもトップクラスの人に誘われるなんて思わなかったから」



 それこそ月城さん程の実力の持ち主ならパートナーなんて選び放題だろう。

 それなのに何故僕の所に来たのか。全く理由がわからない。



「ちょっと七海!! 私とペアを組むんじゃないの?」


「そっ、相馬さん!?」


「あっ、如月君。もしかして七海、実習のペアを如月君と組もうとしてるの?」


「そうなのよ、奈緒。今回私は如月君と組もうと思ってるの。ごめんね」


「ふ~~ん。なるほど」



 僕の顔と月城さんの顔を交互に相馬さんは見る。

 しばし僕達の顔を見た後、納得したようにうなずいた。



「七海と如月君がペアか」


「そうなの。ダメかな?」


「う~~ん、なるほどね。それならしょうがないかな」


「相馬さん!? 何でそこで納得するの!?」



 普通だったら止めに入ってもおかしくないのに、今日に限って何でそんなに物分かりがいいの。

 僕と組むならしょうがないっかって顔をしてるよ。



「でも、七海。重要な事を忘れてるよ」


「重要な事って何よ?」


「今回の実習に如月君が参加するかってこと。いつも魔法の実技は参加してないんだから、まずはそこを確認しないと」


「そういえばそうね。如月君はこの実習には参加するの?」


「するしないで言えば、するけど‥‥‥」


「なら決定ね。それなら私と組みましょう! 貴方に絶対損はさせないわ」



 力強く手を差し出す月城さん。正直僕の事を選んでくれるのは嬉しいけど、既に僕にはぺアになるべき人がいる。



「ごめん、月城さん。僕にはもうペアが‥‥‥」


「ちょっと待て、月城。海と勝手にペアを組もうとするなんて少し横暴なんじゃないか?」


「黒柳君、邪魔しないでよ。如月君とは既に私と組む約束をしてるんだから」


「何を言ってるんだよ。海は既に俺とペアを組む約束をしてたんだ」


「そっ、そうなの!? 如月君!?」


「うん、ごめんね。月城さん」



 月城さんには申し訳ないけど、僕は望と組む約束をしている。だから月城さんの誘いに乗ることは出来ない。



「でも、びっくりした。いつも魔法実習に参加しない如月君が参加するなんて」


「どういうことだよ、相馬?」


「言葉通りの意味よ。この実習は普段の魔法実習よりも明らかにレベルが違うんだから、参加するなんて考えられないでしょ?」


「そうだね。普通は驚くよね」



 確かに相馬さんがそう考えるのもそうだろう。今まで魔法の授業に参加していなかった人が、いきなり参加するんだ。驚くのも無理はない



「確かに驚いたけど、あたしは如月が実習に参加してくれたのは嬉しいかな」


「何で? 魔法が使えないお荷物なのに」


「お荷物かどうかは実習に参加すればわかるでしょ? それに如月は剣の腕は立つからちょっと期待している所もあるよ」


「ありがとう、お世辞でも嬉しいよ」


「お世辞じゃないって。七海も如月の事を頼りにしてるから」


「ちょっと奈緒!? 何を言ってるのよ!?」


「だから七海の事をよろしくね、如月君」


「ちょっと待て!! 海と月城が組む流れになってるけど、海は俺と組むんだぞ」


「そうだったね、ごめんごめん」


「お前、わざとだろ」


「何の事でしょう」


「しらじらしいな」



 相馬さんと望が睨みあいをしている。2人が睨みあっているのは正直怖い。



「そんなことよりも望、早く先生に報告に行こう


「そうだな。悪いけど、海はもらって行くぞ」


「ぐっ!! 黒柳って性格悪いのね!!」


「何度でも言えよ。こっちは莉音ちゃんにも了承は得てるんだ。問題ないだろう」


「ちょっと待って!!」


「まだ何かあるのかよ、月城」


「黒柳君と如月君がペアを組むって、本当に均等なの?」


「どういうことだよ?」


「如月君は魔法が不得意だから、魔法が得意な人と組ませた方がいいんじゃないかしら?」


「何を言ってるんだよ? それなら俺でも問題ないだろ?」


「私の方が黒柳君よりも魔法は得意だから、黒柳君以上に如月君のフォローも出来るって事よ」


「何を言ってるんだよ? フォローって事だったら、海と友達の俺の方が適任だろ?」


「魔法のフォローって事なら、私の方が自信はある」


「何を根拠にそんな事言ってるんだよ?」


「この前如月君と共闘して戦った時、如月君とのコンビネーションは抜群だったわ。だから問相性的にも問題ないはずよ」



 そう言って2人は睨みあう。どうやらこれはただでは転ばないようにも思えてきた。



「はぁ~~、しょうがないわね」


「相馬さん?」


「2人がそこまで如月とのペアにこだわるなら、先生に決めてもらいましょう」


「先生だと?」


「えぇ、最終的にペアのバランスを取るのは先生だから。先生に聞いて見た方がいいでしょう」


「面白い事を提案するじゃないか、相馬」


「えぇ、奈緒にしてはいいことを言うわね」


「ちょっと望!? そんなかけにのるの!?」


「大丈夫だよ。海は必ず俺と組めるから」


「どこにそんな自信があるの!?」


「そしたら私先生を呼んでくるね。みんなはそこで待ってて」


「相馬さん!?」



 僕が引き留める前に相馬さんは先生の方へと行く。先生と言葉を交わした後、相馬さんは先生を連れて戻ってきた。



「先生を連れて来たよ」


「事情は先程相馬さんから聞きました。如月君のパートナーがどちらがふさわしいかを決めるってことでいいですね?」


「はい」



 望と月城さんの2人を先生は交互に見る。そして困ったような顔をしていた。



「如月君にふさわしいパートナーを選ぶという事ですね」


「はい」


「う~~ん、これは難しい問題ですね」


「難しくないでしょう。俺が海のパートナーにふさわしいです」


「いえ、私の方が如月君にふさわしいと思います」



 望と月城さん、学年トップの魔法士が僕の事を取り合っている。

 2人とも学年ではトップレベルの魔法の力を持つ。

 そんな2人が僕の事を取り合うことを光栄に思いつつも、何で僕なんかを選ぶのかわからなかった。



「非常に悩ましい所ですが、全ての要素を鑑みると月城さんですね」


「えぇ~~!?」


「先!! 何で俺じゃないんですか!?」


「魔法の成績h黒柳君よりも月城さんの方が成績がいいので、決めました」


「魔法の成績だけで決めたんですか?」


「それは違います。剣の実習では如月君は学年でもトップの成績を持っています。それに比べて、月城さんも剣術の成績は学年でも上の方です」


「だったら海が俺と組んでも問題ないんじゃないですか?」


「黒柳君は剣術の成績でも学年でトップクラスの成績を持ちます。月城さんは剣の成績は黒柳君よりも落ちます」


「何が言いたいんですか?」


「剣が得意な如月君、魔法が得意な月城さん。バランスを取る上では何でも1人で出来る黒柳君よりも、お互いの長所と短所を補う月城さんの方が相性がいいと考えました」


「でも、俺は海の友人で‥‥‥」


「確かに如月君の事をよく知っているという所では黒柳君に任せた方がいいでしょう」


「なら‥‥‥」


「友人である黒柳君と息が合うことは私もわかります。だからこそ今まで組んだことない人と如月君を組ませることで、如月君の新たな可能性が引き出されると思っています」


「それなら俺だって、海いい所は引き出せます!!」


「それは君と組んだ時の如月君のいい所でしょう。もしかすると月城さんは如月君の新たな一面を引き出してくれるかもしれません」


「かもしれないでしょ? 俺の方が相性がいいのは先生もわかってるはずだ」


「確かに総合的に見れば黒柳君と組ませた方がいいかもしれません」


「だろ? それなら‥‥‥」


「ただここは軍隊ではなく学校です。いつも黒柳君と一緒にいるよりも、月城さんと一緒の方が如月君も色々なことを学べると思って選びました」


「先生」


「結果も重要ですが、過程も重要です。特に貴方達はまだ若いのだから、まだたくさん失敗が出来る」


「失敗したら意味がないだろう」


「それは違いますよ。失敗をして反省をして、同じことを繰り返さなければいいんです。だからその為にも今回は如月君と月城さんのペアを選びました」



 先生の言っていることは何となくわかる。つまり僕のこの先を考えて、2人でペアを組んだ方がいいと言ったのだろう。

 何も考えずに先生も言っていたわけじゃない。ちゃんと根拠があって僕達の事を決めてくれたみたいだ。。



「先生ってちゃんと先生なんですね」


「相馬さんは余計な一言をいうのを直しなさい」


「うげっ!? いま口にしてた!?」


「そうよ、奈緒。そういう所は悪い所なんだから、注意しないと」


「は~~い」



 これで一応僕のペア決めは決着したみたいだ。

 望と一緒のペアになれないのは残念だけど、こればかりはしょうがない。



「ごめん、望。一緒のペアになることが出来なくて」


「こればかりはしょうがないだろう。月城、海に何かあったらしょうちしないからな」


「わかってるわよ。よろしくね、如月君」


「うん。こちらこそよろしく」



 こうして波乱含みのペア決めは幕を閉じる。

 結局僕は月城さんと一緒のペアとなり、校外実習に挑むことになってしまうのだった。


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神殺しの少年 一ノ瀬和人 @Rei18

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