第26話 憧れと現実
次の日の朝、いつものように剣の鍛錬を終えた僕は家へと戻る。
そして学校に行く準備を整え莉音と共に家を出た。
「「いってきます、薫子さん」」
「海君、莉音さん。お気をつけて」
薫子さんに見送られ、僕達は学校へ向かって歩いていく。
隣にいる莉音はいつも以上にニコニコしていた。
「今日はやけに機嫌がいいね」
「はい! あんな凄いものを見せられて、興奮しないわけがないですよ」
「それって新入生歓迎会の事だよね?」
「もちろんそうです」
「やっぱりそうか」
昨日家に帰ってからも莉音はずっとこんな状態だった。
夕食の時も新入生歓迎会の話をしていたので、よっぽど学徒の事が気に入ったように見える。
「新入生歓迎会の学徒の皆さん、本当に凄かったです」
「うん。そうだね」
「みなさん舞台の上でキラキラ輝いていて。正直憧れます」
「莉音がそう思う気持ちもよくわかるよ」
昨日舞台の上に立っていた人達は眩しく画家焼いていて、僕達とは別世界の人間と思ったぐらいだ。
莉音が憧れる気持ちもわかる。僕だって思わず嫉妬してしまうぐらいに、学徒の人達は格好良かった。
「莉音は学徒に入るんでしょ?」
「私ですか? 私は入るつもりはありませんよ」
「どうして入らないの? 憧れてるんでしょ?」
「確かに私は学徒に憧れてます。でも、憧れと現実は別物なんですよ」
「どういう事?」
「お兄様には内緒です」
「何で!?」
「何でもです」
「莉音がいいならいいんだけど」
莉音の魔法の成績は学年でもトップなのにもったいない。
学徒に入れば、間違いなく未来が約束されていたのに。
「だからこれからも登下校時は私を置いて行かないでくださいね」
「うっ、うん」
僕の右腕に抱き着いて歩く莉音は何故か嬉しそうだった。
さっき学徒の事を話していた時よりも機嫌がいいようにも見えた。
「おはよう、海。‥‥‥って、相変わらずお前達はラブラブだな」
「ラブラブなわけないでしょ!? 実の妹だよ!? どこをどう見たらラブラブなの!?」
「いや、俺は見た通りの事を言っただけなんだけど?」
僕達の姿を見た望は何故かあきれていた。僕と莉音の事を交互に見て、ため息までついている。
「前からお前がシスコンだという事は知っていたけど、まさかここまでとはな」
「誤解だよ!! 僕はシスコンじゃないから!?」
「今の自分のその姿を見て見ろよ。その言葉に1ミリも説得力を感じないぞ」
「これは莉音が少しだけ僕に甘えてるだけだからね!? 深い意味はないよ!?」
「そうですよ。これはだたの兄妹のスキンシップです」
「スキンシップにしては過剰だろう」
「過剰じゃありません!! これでもお兄様ともっとしたいことがあるんですから!!」
「莉音は僕と何をしたいの?」
「それを聞きたいんですか?」
「いや、やめとくよ」
何故かその先を聞いてはいけないような気がした。僕の腕を取り上目遣いをする莉音から目を背ける。
「お兄様、何で私の事を見てくれないんですか!?」
「ごめん。ちょっとあっちの方が気になって」
「まぁ、海がシスコンなことはおいといて」
「それは置いとく事!?」
「それよりも海、お前は今回あの行事には参加するんだよな?」
「あの行事?」
「今度の校外実習だよ。2年生が行う実戦形式の魔法実習の話だ」
「あれか。それなら僕も参加しようと思ってるよ」
この高校伝統の実戦形式の魔法実習。毎年学年ごとに行われており、2年生はこの時期に行われている。
「2年生はどこで行うんですか?」
「今年はここから少し離れた所にある山林だな」
「山で行われるんですか!?」
「あぁ、山の麓から頂上にある宿舎に到達すれば合格っていう単純明快なものだ」
望の言う通り試験の概要としては簡単なものだ。どんな手を使っても山の頂上の宿舎につけば合格という、魔法学校の試験としてはもっとも単純な実技試験である。
「それなら簡単そうですね」
「概要だけを聞けば簡単そうだけど、中身はそう簡単なものじゃない」
「どういうことですか?」
「あれは先生達が仕掛けた罠を突破して目的地を目指すものなんだよ」
「宿舎に行くまでの道は罠だらけ。どんな仕掛けがあるか、行ってみるまではわからない」
「それって普段の魔法実習よりも危険じゃないですか!?」
「確かに危険だよ。でも山の頂上の宿舎にたどり着けばいいだけだから、魔法が使えない僕も参加出来るんだ」
魔法を使って何かをするわけじゃないので、魔法が使えない僕でも十分合格することが可能な試験となっている。
「でも、魔法が使える前提の試験なんですよね? 魔法が使えないお兄様には不利なんじゃないですか?」
「確かに不利だよ。でも大丈夫。去年の校外実習でも、同じような内容の試験も参加したから」
「1年生の時は確か森の中を踏破するやつだったよな?」
「うん。あれも無事にこなせたから今回の試験も問題ないと思うよ」
望が心配する理由もわかる。あの実習は魔法を使わないと突破できないような罠もあるから進路にも十分注意しないといけない。
だけど去年の実習でも僕はそう言った罠を潜り抜けて来た。だから今回も問題はないはずだ。
「それなら安心ですね」
「心配してくれて、ありがとう。莉音」
「そこでだ、海。校外実習のペアは俺と組もう」
「えっ!? 今回の校外実習はペアで行動するの?」
「そうだぞ。知らなかったのかよ?」
「知らないよ。去年は1人で突破していたから」
だから今回も個人競技だと思っていた。
「2年時の実習はペアで行うんだよ。だから一緒に組まないかって言ってるんだ」
「でもそれだと望の足を引っ張らない?」
「引っ張るわけないだろう。むしろ去年あんな強烈な罠満載の中、魔法が使えないのに突破した奴がペアなんだ。心強いに決まってるだろ」
「わかった。そしたら一緒にペアを組もう」
「よし、決まりだな」
僕も望が相棒なら心強い。学徒には入っていないけど、望も魔法の成績は学内でも指折りの実力者だ。
それだけでなく剣術もかなりの腕前なので、相方としては申し分ない。むしろ僕の方からお願いしたい。
「ということだから、君のお兄ちゃんは俺が預かるからな」
「むぅ~~!! 望君はずるいです」
「ずるいも何も、校外実習は学年ごとに別れているんだから仕方がないだろう」
「私もお兄様と同じ学年なら、一緒のペアになれたのに」
「悪いが今回はあきらめてくれ」
「むぅ~~~~!!」
僕の腕を掴みながら莉音は地団太を踏んでいる。
いつもはおっとりとした莉音からは考えられない行動だ。
「ペアになるのは決定事項なんだ。どこぞの馬の骨と組まされるよりも、俺と一緒の方が安全だろ?」
「確かに‥‥‥そうです」
「ならいいだろ? ちゃんと丁重に扱うから、少しだけ海を借りるぞ」
「わかりました。その代わりお兄様に変な事をしたら許しませんからね」
「もちろんだ」
莉音に対する望の返事は相変わらず軽いものだ。
それを聞いた莉音は頬を膨らまし、相変わらず不満そうな表情をしていた。
「そういう態度だから、莉音に不信感を持たれるんだよ」
「これが俺なんだから仕方がないだろう」
「‥‥‥望君はそういう所を直すべきだと思います」
僕の腕にしがみつきながら、莉音はぼそっと言う。
その後も僕達3人で歩く中、学校に到着するまで莉音の愚痴は続くのだった。
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