一日で人生が鬼のように一変した男の話
総督琉
たった一日の出来事
俺は今、人生のどん底に立っていた。
彼女にフラれ、仕事はクビになり、愛犬は死に、高校は落第し、詐欺に遭って金を騙し取られた。おかげでアパートも追い出され、喫茶店で俺はなけなしの金でコーヒーを頼んでいた。
だが、二十分経ってもコーヒーは来ない。
「さすがに遅い」
そう感じた俺は、偶然通りかかった女性の店員に「すいません」と言い、呼び止めた。
「どうされましたか」
生気のない俺の表情とは正反対に、彼女は満面の笑みを浮かべて俺に訊き返した。
「二十分前に頼んだコーヒーがまだ来ないんですけど」
「大変申し訳ございません。ただいまお持ちしますので、少々お待ちください」
女性店員はキッチンへと消えていく。その背中を肘をつけながらじっと見つめていた。
あんな女性と結婚できたら良いのに、なんて思っていた。彼女は可愛くて明るくて、歳もそれほど離れてはいないだろう。だがあれほどの可愛さがあれば、きっともう既に付き合っている人くらいいるんだろうな。
明るい笑みを浮かべながら、彼女はコーヒーとショートケーキを持って俺の席へと向かってきている。
「お客様、申し訳ございませんでした。こちら、コーヒーとお詫びの品です」
コーヒーが遅れた対価にショートケーキを貰えるなんて、今日は何かとついている。
「ありがとうございます」
そうお礼を言うと、なぜか彼女は固まった。
「あのー、どうかされましたか?」
「いきなりで驚いてしまうかもしれませんが、私と結婚してください」
「えぇぇぇぇぇぇえええええええ!?」
全く面識のない彼女は俺にそう言った。
それは大変嬉しいことではあったが、それと同時に驚くべきことでもあった。
驚きに包まれる中、彼女はポケットから箱を取り出し、膝をついて箱を開いた。
「これ、一億円の結婚指輪です」
「ええぇぇぇぇえええええええええええええ!?」
箱にはダイヤモンドの輝きなのか、俺のような庶民では到底拝めないような輝きの指輪が入っていた。
それにはさすがに腰を抜かす。
「ちょ、ちょっと待ってください……」
一旦状況を整理したい。でなければこの状況は理解できない。
見ず知らずの女性に告白され、一億円の指輪を貰った?全く理解できないよ。
「あの、父と母も来ているので紹介させてください」
「えええぇぇぇぇぇええええええええええええ!?」
「それとお爺ちゃんとお婆ちゃんも連れてきてて」
「ええええぇぇぇぇぇぇええええええええええ!?」
「死ぬ前に孫の顔が見れそうじゃな」
「えええええぇぇぇぇぇええええええええええ!?」
家族版オールスター感謝祭か。
どうしてこんなにも彼女の家族が勢揃いを……って、
「実はここ、喫茶店じゃなくて式場なんです」
「ええええええぇぇぇぇぇぇえええええええええ!?」
驚きもつかの間、なぜか結婚式でよくいる牧師の服装をした謎のおっさんが俺と彼女の前に立つと、
「ダーレコノヒトッ」
「新婦さん。あなたはいついかなる時も、新郎を愛することを誓いますか」
「誓います」
「えええええええぇぇぇぇぇえええええええええ!?」
「新郎さん。あなたはとにかく新婦を愛することを誓いますか」
「ええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええ!?」
「あなた、照れなくて良いのよ」
「え?誓います?」
戸惑いながらも、俺はそう言った、言うしかなかった。
すると店内にいた客は皆花束を持ち、それを俺たちに投げてきた。
「ナニコレ?」
戸惑う俺の両頬を掴み、彼女はそっと唇を近づけてきた。
「えええええええええええぇぇぇぇぇえええええ!?」
と叫びながら、俺はベッドから転げ落ちた。
そこでようやく理解できた。あの理解できないことは全て夢だったと。
「何だ、夢か」
デートをドタキャンされた時のような虚しさを感じ、俺はベッドに座り、天井を見上げた。
だがその天井は見たこともない天井だった。
「あれ……ここ、誰の家?」
薬指に何かついていると感じ、見てみると、そこにはダイヤモンドでできているのか、目映いまでの指輪がはめられていた。
「え!?」
困惑する中、勢いよく扉が開けられ、そこから入ってきた女性はウエディングドレスを着、走ってきていた。
耳元で「好きだよ」と呟くと、俺の口を塞ぐように唇を合わせてきた。
君は、叫ばせてもくれないんだね。
一日で人生が鬼のように一変した男の話 総督琉 @soutokuryu
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