第59話 目覚め

 すこし冷たい風が吹く公園。

 現実世界だったらの話だ。

 ここはイマジン空間のため、気温は一定。熱くも寒くもない。

 戦いが終わったはずなのに、何も起こらない。

 何かが起こると思っているようで、アラタは待っていた。

 しばらく待った。

 カンサロウケ・ジャニュが天をあおいでいる。

 イマジン空間も展開したままの状態。周りは紫色。

「何か出てくるんじゃないのかよ」

 アラタは困った。早くしないとマモノが現れてしまう。そして、空に向かって叫ぶ。

「願いを聞いてくれ! おれの願いは――」


 病院。カエデが入院している場所だ。

 中は、冷房が効いていない。もう、必要ない季節になっている。

 白い内装の病室。そこには、ミズチが寝ていた。

 そこへ、カエデがお見舞いにやってくる。

「お兄ちゃん、きたよ」

 普通に歩いていた。ベッドに座っていたころとは違って、生命力が満ちあふれているかのようだ。

 昔とは違い、兄と妹の立場が逆転していた。ミズチが、その様子を見ていなかった。

 その部屋には、もう一人、部外者と呼ぶべき人物がいた。カエデのほうを向いて、何かを言おうとしていた。そして、何も言わなかった。いや、言いだすのに時間がかかっていた。

 部屋に立っていたアラタが、カエデに向かって苦笑いのような表情を作った。ばつが悪そうにしている。

「悪い。おれのせいなんだ。って、信じてもらえないだろうけど」

「ううん。信じるよ」

「え?」

「お兄ちゃん、隠し事ヘタだもん」

 カエデが言った。

 アラタは、あのときのことを思いだしていた。

 バトルロイヤルが終わったあとのことを。

 イマジン空間が広がる公園。

「願いを聞いてくれ! オレの願いは、カエデちゃんの病気を治すことだ!」

 まばゆい光。

 まず、ロウケのカードが光った。

 そして、カンサのカードも光る。

 アラタのカンサロウケ・ジャニュが、光となって消えた。

「さよならだな、相棒」

 願いは聞き届けられたに違いない。そう確信したような顔で、アラタは空を見つめていた。

 さまざまな戦いを巻き起こしたバトルロイヤルは、終わったのだ。

 そして、回想が終わる。

 白を基調とした病室は、静けさに包まれていた。

「起きないね、お兄ちゃん」

「大丈夫。おれを信じろって」

 病室に差し込む光。

 ロウケとカンサのカードが光ったときとは違う、暖かくてやわらかい光だ。

 ゆっくりと、ミズチが目を覚ました。

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ロウケ 多田七究 @tada79

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