3

「!」


 目が覚める。


 俺は自分の部屋の布団の中にいた。


 今のは……夢?


 目覚めた意識が、俺がまだ中学二年であることを思い起こさせる。俺は心の底からほっとした。夢で本当に良かった……


 それにしても……


 恐ろしい夢だった。いや……本当に夢か? ひょっとして……これは、今の状況が行き着く先の、あり得る未来だったんじゃないのか?


 ……。


 だけど、いずれにしても、まだやり直せるんだ。俺は心を決めた。


---


「おはよう、浩太」


 登校の道のり。いつものように、史奈が声をかけてきた。だけど俺は、彼女の笑顔がここ最近強張り気味になっていることに気づいた。


「……」


 彼女の顔をまともに見ることができない。


「あれ、どうしたの? 浩太、なんか元気ないよ? 風邪でも引いたの?」


 そう言って、史奈が心配そうに俺の顔を覗き込む。


 限界だった。


「う……」


 俺の眼から、涙がこぼれ落ちる。


 ちくしょう。


 史奈……なんでそんなに優しいんだよ……俺は毎日のように、お前をいじめてたんだぞ……


「ちょ、ちょっと、どうしたの浩太! 泣いてるの? どこか痛いの? 大丈夫?」


 血相を変えて、史奈が俺を見つめる。その優しさが俺の心を直撃し、新たな涙を誘う。


 そうか……ひょっとしたら、今の史奈は俺のこと、まだ好きなのかもしれないな。だから俺がいじめても耐えていたんだ。だけど、それだって限度ってものがある。そして、その限度を超えた結果が……あの夢だったのかも。


 俺は、こんなに優しい女の子をいじめていたんだ……そして、危うく彼女を完全に失うところだった……


「史奈……」


 今こそ、ずっと彼女に言えなかった、だけど言わなくちゃいけない言葉を言う時だ。


「ごめんな……今までいじめて」


 しゃくり上げながらも、ついに俺は言った。


「浩太……?」


 史奈が、キョトンとしたような顔に変わる。


「俺……もうお前のこと、いじめないから……だから、これからもずっと、俺と仲良くしてくれ……」


「……浩太」


 史奈はしばらくポカンと俺を見つめていたが、やがて満面の笑みになる。


「うん。わかったよ、浩太」

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言わなきゃならなかった、言葉 Phantom Cat @pxl12160

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