水曜日。宇宙の渚で待ってるよ(プレミス)
嶌田あき
プレミス
■プレミス
廃部が決まった天文部のひとりぼっち部員・
〈エクササイズ〉
■ 主人公は誰?
世話好きで頼まれるとノーと言えない性格。何事にもあまり深く考えず「まぁ、なんとかなるよね」と楽観的。悪く言うと警戒心が弱くて不用心。自分の欲求を表に出すのが下手で「自分らしさ」がほしいと悩んでいる。
■ 主人公は平凡か、非凡か?
平凡だが人助けに関しては非凡な才能を発揮する。
■ 冒頭で主人公はどんなシチュエーションにいるか?
廃部寸前の天文部。初めは人助けのつもりで所属した澪が、今や唯一の部員だ。
活動日である水曜日の放課後は、顧問の羽合と雑談などしてゆるりと過ごす。屋上にある天文ドームは、澪と羽合にとって現実から目をそむける逃げ場になっている。
ある日「5年前の卒業式に学生が気球で飛ばしたと思しきカプセルが見つかった」と連絡が入る。卒業式の最後に卒業生全員で風船を飛ばすセレモニーがあり、その年1番高く風船が上がった生徒の願いが叶う、なんていうジンクスが知られていた。
連絡を受けて澪と羽合が受け取りに向かうと、それは姉が当時部長をしていた理科部が上げた高高度バルーンだった。記録では高度10キロまで上り、文句なしに「その年1番高くまで飛んだ風船」だった。
■ 冒頭での主人公の状態は?
澪は姉の死から5年経っても、心のなかでうまく整理できずにいた。
それは澪がひそかに心を寄せていたものの想いを伝えられずにいた羽合が姉の恋人だったから。もちろん、彼が教師であるということも、澪が想いを伝えられない理由のひとつではあったが、それだけじゃない。なにより、姉に申し訳ないし、いまのゆるい関係が壊れるのもいやだったのだ。
■ 主人公または敵対勢力によって、それはどう変わっていくか?
高高度バルーンを回収して以来、澪のもとに姉からメールが届くようになる。どうやらバルーンに取り付けられていた姉のスマホが関係しているみたい。
澪は文化祭の準備で羽合と一緒の時間を過ごすうちに、彼の「自分らしさを大切にする」ところを学び始める。ひとりぼっち天文部のことを茶化すヤツや、教師との恋愛関係への揶揄や攻撃もあらわになってくるが、結局、澪の最大のライバルは姉だ。
澪は姉の高校時代と自分とを照らし、少しずつ自分自身のことにも興味を持つようになる。やがて友人や羽合の力も借りて文化祭での展示を成功させる頃には、澪は姉への遠慮をやめ、自分の欲求を表に出せるようになる。
そして澪は、卒業式で高高度バルーン打ち上げ、姉の叶えられなかった「宇宙の渚」の写真撮影に挑むことを決意する。
■ 主人公が置かれたシチュエーションは平凡か、奇抜か?
奇抜(のはず)。
亡くなった姉から届く、送られてくるはずのないメール。姉の恋人だった羽合との禁断の三角関係。部員1人の天文部で宇宙の渚を目指すというのも奇抜。
■ 主人公の目的は?
自分の欲求を表に出せるようになるのが目的。それは、姉が叶えられなかった「宇宙の渚」の写真を撮ることで姉への気持ちを整理し、その上で卒業までにちゃんと羽合に想いを伝えることである。
■ メインの敵対者は誰? 人物でなければ何と敵対する?
澪の6歳上の姉・
■ 「普通の世界」にいる主人公が葛藤や対立を体験し始めるのは、どんな災難が起きるからか?
天文部の廃部確定。理科棟の建て替え工事が行われるが、天文ドームは再建されない。そのため、澪が卒業する来年3月をもって天文部は廃部と決定する。羽合も採用3年目で来春には異動する可能性大。じつは羽合の卒業の際にも天文部の廃部騒ぎがあったが、当時、理科部の部長であった姉の機転で天文部の廃部はなんとか回避されたのだった。
■ その災難に対する主人公のリアクションは、どんな葛藤と対立を生むか?
澪はあくまで楽観的で「よーし、天文部最後の大花火だ」なんて言って文化祭で星空見学会やらプラネタリウムやらあれこれ楽しそうな企画を考える。羽合に相談すると彼も「いっちょやるか」と二つ返事で乗ってきて、2人の大作戦が始まる。
澪は羽合の中に見え隠れする姉の存在が気になって仕方ない。2人きりでいられる時間は楽しい半面、澪も羽合も綾のことを思い出してしまい、ついついしんみりしてしまう。結局、澪は羽合に想いを打ち明けないまま、モヤモヤと過ごすことになる。
■ その葛藤と対立はすんなり解決せず、ストーリー全体を通して続く。その理由は?
澪がなかなか、自分自身の欲求を表にだせるようにならないから。
綾は生前から、澪のそういった性格のことをずっと気にかけていたのだった。綾が亡くなったことで澪は彼女の助けなしで自分でどうしたいのか言い出さないといけなくなった。羽合も澪の気持ちには気づいているが、綾への後ろめたさと教師であることの自制心から、決して一線を越えようとはしない。そのことが、なおさら澪をモヤモヤさせてしまう。
羽合の助けもなくなると、澪はいよいよ自分の本心と対峙せざるをえなくなる。
■ このアイデアに説得力はあるか?
ある(はず!)。
「自分らしさ」というのはとても相対的なもので、得てして1人で見つけにくい。澪は「妹としての自分」「女性としての自分」「学生としての自分」など社会的役割や他人との関係性の中で「自分は何者なのか」を模索する。こういった行動は「アイデンティティ(自我同一性)の確立」と呼ばれ、多くの人が経験する成長のワンシーンである。
■ このアイデアに独自性はあるか?
ある(はず!)。
死んだ姉の恋人を好きになったり、風船を宇宙の渚まで飛ばしたりといった個別の要素はそれほど目新しくはないが、それらの組合わせには独自性がある(はず!)。
■ 他の類似したストーリーとの違いは?
兄弟・姉妹の死を含む三角関係や、教師と生徒の恋愛という青春・恋愛ストーリーは小説・マンガ・映画など多数知られている。しかし、本作はそれらをライトなSF設定で絡め取ったところが他の類似ストーリーと違う。また、いわゆる「難病モノ」のその後を描いている点も差別化できるポイント。
■ どうすれば独自性を高められるか?
姉のユーレイ登場やタイムリープなど、もう少し「濃いめ」の味付けになるようにSF的ギミックを取り入れる、とか?(あんまり非現実的なのは避けたい……)
■ ストーリーの焦点は?
あい対するものが入り交じる様々な「渚」を通した澪の心の成長。
宇宙と地球が入り交じる「宇宙の渚」。大人になりたい自分と子供じみた態度を繰り返してしまう自分の間で揺れ動く「成長の渚」。生きたくても死んでしまった姉を忘れられず、死んだような気持ちのまま生きる「生死の渚」。
■ ジャンルは?
SF×青春・恋愛
■ 読者層は?
全年齢・男女(感情移入しそうなのは10代〜40代でしょうか)。
「君の名は」「あの花」などの作品が刺さる層に届くといいなぁと思います。
水曜日。宇宙の渚で待ってるよ(プレミス) 嶌田あき @haru-natsu-aki-fuyu
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