1話 二人で一つ

※先にエピローグを読むことをオススメします



「ん・・なんだここは・・」

 激しく痛む頭を押さえながら体を起こすと、そこはどこか見知らぬ教会のような場所だった。

 華美な装飾で彩られた中世風な聖堂には祭服を着た牧師のような人が数人と長いローブを着たいかにも魔法使いのような見た目をした女性が立っていた。

 夢でも見ているのか。いまいち状況をつかめないまま後ろを振り向くと、そこには咲奈が横たわっていた。

「おい、咲奈。起きろ!」

「んむぅ・・なによいきなり・・・はぇ?」

 ようやく今の状況を視界にとらえたのか、間抜けな声を漏らす。

「ちょっと待って。これはどういう状況?」

「うるさい。僕にも分かるわけないだろ」

 すると僕たちが目を覚ましたことに気づいたのか一人の牧師がこちらへと近づいてきた。

「よくぞお目覚めになった。我らが勇者よ」

 突然、勇者といわれ、訳も分からないまま唖然としていると

「あなたがた二人は我らがこちらへと召喚いたしました。召喚される直前にきっと聖紋を見たはずです」


――地震か!——


―—な、なんなのよこれ!——


「・・思い出した・・」

 つまり、僕たちはあの揺れや紋章とともにこの世界に召喚されたというわけか・・

 そんな馬鹿な話があるものか・・アニメの見過ぎで夢にまででてくるようになったか・・

 そんな僕の感想を代弁するように咲奈が反論する。

「アニメじゃあるまいし。でたらめに決まってるわ!」

「それではでたらめかどうか、試してみますか?」

「ふ、ふん。上等じゃない」

 牧師の思わぬ返答に咲奈は一瞬気圧されたが、無駄にプライドが高いので自分の考えを曲げない。

「それではサーラス、何でもいいです。聖術を一つ見せなさい。くれぐれも傷をつけないように」

「はっ」

 サーラスと呼ばれた先ほどの魔法使いの女が右手に持った杖を空に向ける。

「ツラデル!」

 そう叫ぶと同時に杖の先から氷の塊のような鋭利な物体が高速で咲奈の頬を掠める。

「え・・嘘・・」

「嘘だろ・・」

 まさかこの状況が現実だと思っていなかった僕たちは驚きで立ち尽くしていた。

「これで、信じて頂けましたか」

 自分が異世界に召喚された、という事実を受け入れられない。

「それでは、ルーブ、こちらへ聖剣を持って来なさい」

「承知しました」

 一人のルーブと呼ばれた牧師が聖堂の奥の方へと歩いて向かう。

 しばらくして戻ってきたかと思うと、その手には二振りの剣が握られていた。

「こちらが救国の英雄アーサー卿がお使いになった聖剣エクスカリバー、こちらが革新の英雄ランスロット卿がお使いになった聖剣アロンダイトでございます。どちらか好きな方をお選びください」

 いきなり魔法だとか聖剣だとか、情報量が多すぎる。聖剣にいたっては好きな方を選べだとかわけが分からない。

「あの、さっきから魔法だとか聖剣だとかこの世界の人間じゃない僕たちからすると訳がわかりません。剣を頂く前になるべく簡潔に説明していただけないでしょうか」

 この世界のことを僕たちはあまりに知らなすぎる。一度、牧師の話を聞いて整理する必要がある。

「これは失礼いたしました。それではこの世界についてお話させていただきます。はるか昔、人間は魔王の脅威にさらされていました。当時は魔法を使う魔王の軍勢・魔物と対等に戦う手段がなく、国が一つまた一つと滅ぼされていきました。いよいよ人間の最後の砦である我が国・ブリターニアンまで奴らの魔の手が差し迫った時、空から二人の英雄が降臨なさったのです。そう、この二振りの聖剣の持ち主であるアーサー卿とランスロット卿でございます。二人はたちまち魔物の軍団を一掃。二人の活躍で魔物を全滅とまではいかずとも、半壊にまで追い込み、魔王に瀕死の重傷を負わせることに成功しました。なんですか?はい、そうです。たった二人きりで。その後は人類再建のために尽力を尽くしてくださいました。例えば、これまで無力であった人間に魔法を授けました。そして、新たな国の作り方。そう、政治です。しかし、ある日突然、二人は姿を消しました。人間は当然それを嘆き、悲しみました。いつまでも悲しんでいるわけにはいかない。そう考えた人間はまた二人が帰ってきたときに共に戦うために二人の聖剣を模して魔法の力を注ぎこんだいわゆる、魔剣を作ったり、魔法の伝承を行いました。こうして今でもブリターニアンは衰えることなく存在することができているのです」

 正直、今の話で100パーセントこの世界について理解できたわけではない。まだまだ不明瞭な点はあるが、聞くほどのことでもない。自分の目で確かめた方がはやいだろう。

 隣に立っていた咲奈が牧師に質問をする。

「つまり、いつか私も魔法が使えるようになるってこと?」

 失礼極まりないアホな咲奈の態度を気にする様子も見せず牧師は答える。

「そうです。才能に左右されますが、大抵の人間はある程度であれば使えるようになりますよ」

「ふ~ん、じゃあ、この男をいつでも殺せるようになるってことね」

 意味ありげにこちらを睨みつける咲奈。魔物より怖くないか?こいつ。

「以上で説明はよろしいですか?」

「あ、はい。すみません」

「いえいえ。では聖剣をお好きな方をお選びください」

 好きな方、と言われてもなぁ。考えていると、

「じゃあ、私こっち!」

 と、咲奈が相談もせずにエクスカリバーと呼ばれていた方を手に取る。

「おい、相談もなしに勝手に選ぶ奴がいるか」

「別にいいでしょ。それくらい。どっちにしろ私に殺されるんだから」

「そういうのマジでやめろ。わかったよ。僕はこっちでお願いします」

 渋々、アロンダイトと呼ばれた方の剣を手にする。

 予想とは裏腹に剣自体の重さはほとんど感じない。

 昔、何かの体験で日本刀を持った時は重くて振り回せるもんじゃないと思ったことがあったのだが、これなら僕でも使えそうだ。

「で、この剣で僕たちはなにをすればいいんですか?」

「最近、魔物たちの力が増してきているように感じます。恐らく、魔王の復活が近いのでしょう。そこで、あなたがたにその聖剣で魔王を討伐してほしいのです」

「はあ?魔王討伐?そんなの私たちにできるわけないでしょ」

「いえ、できます。絶対に」

「そ、そうは言われても・・」

 咲奈は突然、語気を強めて言い切った牧師に少し怯えている様子だった。

 ここは一つ交渉といくか。戦う理由があまりに理不尽だからな。

「それでは僕たちにリターンがなさすぎます。僕たちはこの国に縁もゆかりもありません。そんな国のために命を懸けて戦え、というのは無理があります。僕たちの命と同等かそれ以上の物を用意していただけないと戦いません」

「そうきましたか・・わかりました。いざ魔王を討伐した暁には元いた世界へとお返ししましょう。約束します」

 本当に元の世界に戻ることができるのかは分からないが、召喚はできたんだ。きっと戻ることもできるのだろう。

「わかりました。もし、討伐することができたら絶対に返してもらいますから」

「ええ、きっとそうします」

「それじゃあ、咲奈。僕は先に行くから。精々生き延びろよ」

「ふん、どの口が言っているの?ヒキニートのくせに」

 相変わらずだな、と教会から出ようとしたとき、牧師が僕を呼び止めた。

「そうです。言い忘れていました。あなたたちはその聖剣を手にした瞬間から二人で一つ。つまり、命を共有している状態になっていますので、どちらかが死ぬと二人とも死んでしまいます。くれぐれもお気を付けください」

・・・は?僕がこいつと命を共有?どういうことだ?

「あんたが死ねば私も死ぬ⁉冗談じゃないわよ!」

 不本意ながら僕と咲奈の魔王討伐兼異世界共同生活が始まった。




 


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二つの命がリンクする 水理さん @MizuRe

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