追加エピソード6 夏休みの里帰り2

 僕が運転するミニバンは海沿いの道から山道に入った。


「お、いい感じのとこじゃねえか。樹、そろそろだろう?」


 すぐ後ろの席の穂乃花さんが乗り出し、運転席にしがみついてきた。


「お姉ちゃん、危ないから。座ってて」


 見ることはできないけど、風花が穂乃花さんを無理矢理座らせたみたいだ。


「竹下?」


「えっとね……あと一時間くらいかな」


「まだそんなにか……」


 ようやく日本刀を作るところを見れるから、穂乃花さんも楽しみで仕方がないんだと思う。


 遠野先生に紹介してもらった鍛冶屋さんは、普段は玉鋼を使って包丁なんかを作っているんだけど、依頼があったら真剣も作っているんだって。特別な技術だから見せてもらうのも大変なのかなって思っていたら、後継者不足で存亡の危機らしく宣伝のために定期的に教室を開いているみたい。


「でも、驚いたぜ。実家の近くにそんなところがあるなんてよ」


 僕たちが向かっているのは島原というところ。実家から車で二時間くらいかな。戸部先生が嫁いだ温泉旅館も近いから、帰りにみんなで泊ることにしているんだ。


「まだかな、早く着かねえかな」


「ほんと、ワクワクしますね」


 穂乃花さんと凪のテンションが、だんだんと上がってきているような気がする。


「だ、大丈夫かな」


「わからん。いざとなったら俺が穂乃花さんを抑えるから、お前は凪を頼む」


「わかった」


 一抹の不安を抱えながら、車は山道をひた走る。









「あれ、さっきは海が右側だったのに、今は左にあるよ」


 ん、他の地方の人には珍しいのかな?

 車は山道を降り海辺の道を走っている。確かに今は海は左側だ。もちろん戻っているわけではない。


「海が違うんですよ。さっきのは橘湾で、こっちは有明海になります」


「まじか、そういや空港も海の上にあったな。この辺なの?」


「いえ、空港があるのは大村湾ですね。ここからだと……一時間ちょっとでしょうか?」


「また、違う海なんだ……もしかして、昨日樹の家で食べた魚も違うところで獲れてたりする?」


 昨日暁はうちに泊まって、晩御飯はお父さんが釣ってきた魚がメインだったんだよね。興味ないから、どこで釣ったかなんて聞いてなかったよ。でも、風花のお父さんと一緒だったはずだから……


「ねえ、風花。お父さんたちどこに行ってたか知らない?」


「伊王島だって」


 伊王島か……


「なあ、竹下。伊王島ってどこの海かわかる?」


「あそこは長崎湾を出たところだろう。五島灘の入り口になるんじゃないか」


「すげえ! ほんと周り海だらけじゃん」


 こんなことで喜んでくれるんだ。なんだか嬉しいな。


「お、樹、そろそろみたいだぜ」


「着いたのか! よっしゃー腕が鳴るぜ!」


 ほ、穂乃花さん、お手柔らかにお願いしますね。








「玉鋼は粘土で作った窯に木炭を入れ、そこに砂鉄を三日三晩入れ続けることで作ることができるのですが、さすがに皆さんを三日間拘束するわけにはいきませんので、今日は最初のところだけを体験していただきます」


 鍛冶工房に到着した僕たちはさっそく玉鋼の作り方についての講義を受けている。ちょっとした座学のあと、実践もさせてもらえるらしい。


 本来なら三日三晩か……穂乃花さんたちは体験したいだろうな。


「最初だけらしいですが、大丈夫ですか?」


「ああ、暁が話を通してくれているからな。凪と一緒に聞きたいことは何でも聞くことにしてんだ」


 何でも……幸い僕たちの他に参加者がいないからいいけど。


「皆さん準備はよろしいですか。それではこちらに付いて来てください」


 座学が済んだ僕たちは、鍛冶工房の人の案内で建物の奥へと向かう。


 そこは天井の高い広い空間で、中央の窯からはすでに赤い炎が上がっていた。


「それでは砂鉄を窯に入れる作業をしていただきます。一回に付き4キロ。これを30分おきに行います」


 4キロ!


「皆さんは4キロがどれくらいかわからないと思います。ここに測りがありますから、使ってください」


 測りがあるのね。よかった。

 まずは穂乃花さん。


「4キロね……こんなもんだろう。どうだ?」


 穂乃花さんが掬い上げた砂鉄の重さはちょうど4キロ! さすがだ。


「お、姉ちゃんやるね。次はこれを窯に入れるんだが、どこに入れたらいいかわかるかい?」


 職人さんがやって来た。ここからの説明はこの人がやるみたいだ。

 ていうか、入れる場所も決まっているの?


「……窯を見ねえとわかんねえな」


「おお、わかってるじゃねえか。姉ちゃん、もしかして経験者かい?」


 確かに経験者だけど。言っちゃわないよね……


「大学で研究してんだ。それで重てえんだが、そろそろいいか?」


「お、すまねえな。ほら、みんなこっちに来な。いいか、窯の火の色が……」


 僕には専門的な話でさっぱりだったけど、穂乃花さんと凪ちゃんはよくわかったようで、窯の作り方や不純物の取り出し方なんかを熱心に聞いていた。あまりグイグイいくもんだから工房の人たちも驚いていたけど、暴走まではしなかったから大丈夫だったんじゃないかな。

 二人が持ち帰った知識で……まあ、失敗しながらになるだろうけど、これでテラの技術がまた進歩すると思うと嬉しくなるよね。


――――――――――

あとがきです。

「樹です」

「竹下です」

「「追加エピソードご覧いただきありがとうございます」」


「戸部先生すっかり女将さんしてたね」

「ああ、久々の温泉でまだポカポカだよって、今回は温泉の話は無いのな」

「地球の温泉だと男湯の描写になるから……需要ないでしょ」

「そうかあ? それなりにあんじゃねえの。試しに出してみたら?」

「えっ! いや、内容的に表に出すことが躊躇われるというか……」

「あはは、また樹が一人でダメージ受けてたよな」

「いや、だってあれは……」

「はいはい、風花はそんなこと気にしないから。それで次回は?」

「えっと、次回は未定です」

「未定か……何書くかは決まってんの?」

「うーん、何にしよう」

「そろそろあいつをメインにしないと騒ぎ出すぞ」

「そ、そうだね。あ、お知らせをしなきゃ。この作品は、ただいま開催中のカクヨムコン8に参加中です。評価がまだの方は応援お願いします!」

「評価貰うと翌日に作品フォロー増えるんだよな」

「うん、トップページに載るからかな、ご新規さんが増えるみたい」

「そしてその人が評価くれたら……」

「翌日にご新規さんが増えるね」

「こんな感じで皆様からの最初に頂いた評価が起爆点になることがあるので、評価してもどうせ変わらないとか思わないでください。俺たちは皆様からの最初の評価を待っています」


「長々と失礼しました。それでは皆さん」

「「次回もお楽しみにー」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

おはようから始まる国づくり 高坂静 @sei-ksaka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ