追加エピソード6 夏休みの里帰り1

追加エピソード5のパルフィと穂乃花さんのすぐ後のお話です。

―――――――


「いらっしゃい。今日は早いね。って、穂乃花さんまで……いったいなに事?」


 あのあとすぐにやって来た風花と一緒に穂乃花さんを説得して、何とか朝ごはんを食べさせた後、暁の家に連れて来ることができた。いくら僕たちが朝日とともに起きていると言っても、ここは日本だ。礼儀に反することはできない。


「遠野、朝早くからすまねえな。おめえ、日本刀を作れる鍛冶師を知っているだろう。あたいに紹介してくれねえか?」


「そりゃあ知っているけど、俺の一存で紹介はできないよ……どうしたの?」


 暁に事の次第を話す。


「まじ! 穂乃花さんとパルフィ繋げちゃったの? ということは、穂乃花さんが日本刀作れるようになったらパルフィも作れるってことじゃん」


 地球とテラでは記憶しか持ち運べない。逆に言うと記憶であったら制限は一切ないと思う。だからこれまでも地球で得た知識をテラに持ち込んでいたんだけど、さすがに特殊なものはいくら僕たちが覚えたとしても、それを他の人に伝えるのは苦労する。特にパルフィみたいな職人気質なのは僕ではお手上げ。本人に見てもらうのが一番手っ取り早いんだよね。


「ただ、俺らって特別だろう。このことを他の人に知られちゃ困るんだよ。だから、親父に聞かないといけないんだけど……」


 暁の家系は忍者だからね。裏の世界で生きているのに目立っちゃったら大変だ。


「だけど?」


「今日はこれから彼女とお泊りデートなんだよ」


 おぉー、とうとう暁も!

 テラの暁であるエキムは15歳になるかならないかの年でお父さんになっているから、よくここまで辛抱できたものだと感心するよ。僕はちょっと自信がないな……


「で、相手は誰なんだ?」


「この近くに住んでる区役所のお姉さん。やっと、ここまで漕ぎつけたんだ」


 暁ははにかみながら頭を掻いている。

 区役所の……そういえば引っ越しの手続きするときに、なんだか懐かしい感じがする人がいた。もしその人なら、チャムさんかもしれないと思っている。暁が惹かれるくらいだからね。


「そう言うことならあたいも無理強いは出来ねえな」


「穂乃花さん、ごめんね。ちゃんと親父には聞いておくから」


 その日は暁の健闘を祈り、僕たちは遠野家を後にした。







「暁君の卒業を祝しまして、かんぱーい」


「かんぱーい!!」「ニャー!」


「いや、ありがとう。俺もとうとう大人になったよ」


 今日は僕たちの家に集まって、男だけで暁を祝っている。

 なぜこんなことになったかと言うと、穂乃花さんと鍛冶師を紹介してくれとお願いに行った翌日、さっそく暁が報告にやって来た。もちろん、鍛冶のことがメインだったんだけど、それが終わってもなかなか帰らない。それでなぜかと尋ねると、『俺さ、お前たちがイチャイチャしているの傍からずっと見てたんだぜ。もうちょっとなんかあってもいいんじゃない?』とのたまいやがった。


 そう言われるとかわいそうな気がしてきたので、プロフパーティを開催することにしたのだ。もちろん男だけで、女の子がいたら恥ずかしいと思うからね。


「お前も大変だよな。あっちではしょっちゅうやってんだろう。それなのに初めての振りしないといけないって、俺なら途中でそんなこと言ってられなくなるぜ」


 テラは娯楽が少ないから、夜と言えば……なのだ。


「まあな、でも燃え上ったらそんなこと気にしてられないって」


 それは確かにそうかも。


「これで、あいつに勝ったと思うと嬉しさもひとしおだな」


「あいつ?」


「うん、海渡。まだだろう?」


 そんなことで張り合ってたんだ……


「残念だけど、海渡ならGW中に唯ちゃんと結ばれたよ」


 翌日カインで嬉しそうに報告してくれたんだよね。


「GWって先週じゃん。もしかして俺が一番遅かったの?」


「一番かな……あ、碧がまだだよ」


 凪と碧の仲がなあ……


「碧、碧……碧君って中学生じゃなかった? それなら勝って当然だよ」


「……すまん、暁。これを見てくれ」


 竹下が見せてくれたスマホの画面には、碧君とのやり取りが残っていた。


「えーとなになに、竹下先輩初めての時失敗しない方法を教えてください……」


 暁が俯いてしまってその先を言わないので、スマホを受け取り読み上げる。


「先輩ありがとうございます。凪さんと一つになることができて僕は幸せです……日付はこちらもGW中だね」


「中学生にも負けてた。こんなことなら聞くんじゃなかったよ」


「ほら暁、落ち込んでないで、さあ、食べて。せっかくのプロフが冷えちゃうよ。あっ! カァルはこっち、玉ねぎ食べれないでしょ」


 こういうのはそれぞれのぺースでやるべきもので、勝ち負けとかどうでもいいと思うんだけどね。













「樹、そこ右じゃねえか?」


 助手席の竹下が言う通り、カーナビの案内は右折を指示していた。


「え、うそ! ……入れないよ」


 右折レーンには車が並んでいて割り込めそうにない。

 邪魔になったらいけないと思って、左車線を走っていたのがアダになった。風花のお父さんから借りたミニバンは僕たち七人が乗っても大丈夫なんだけど、大きくて小回りが利かないんだよね。


「この先からも行けそうだから、そのまままっすぐな」


「わ、わかった」


 夏休みに入った僕たちは地元に帰ってきている。


「ほんと、聞いてた通りどこにでも海があるんだ」


 無事右折することができた僕たちの右手には大きな海が広がっている。すぐ近くに海があるのは僕たちにとって当たり前だけど、他の県の人たちには珍しいんだろうね。


「ふっふっふ、羨ましいでしょエキムさん。タルブクには海なんてないんだからしっかり目に焼き付けて帰ってくださいよ」


「確かに俺んとこには海は無いけど、それはカインだって同じだろう。それにいつも言っているけど、俺は暁、エキムはあっちの俺!」


 相変わらず仲がいいなー。


「樹、大丈夫そうだな」


「え、うん」


「最初、ガチガチだったからビビったぜ。こいつに命を預けて大丈夫なのかって」


 あはは、だって免許取って初めての長距離運転だもん。それにみんなも乗せているから緊張していたんだと思う。


「竹下のナビが頼りなんだから、よろしく頼むね」


「おう、任せとけ!」


 海岸沿いのアップダウンのある道を東に向かって進む。

 周りには見慣れた赤土の畑が広がってきた。


「ねえ、ここは何を作っているの?」


 僕たち地元民は知っているけど、さすがに暁はわからないか。


「ここはじゃがいもですね。最近できた品種はホクホクで美味しいですよ」


 さすが海渡は総菜屋の息子だけある。新品種のことまでは知らなかったよ。


「この色の土って痩せてんだろう。こんなんでも育つんなら、ジャガイモをテラでも作ったらいいんじゃない?」


 確かにそう思う。ジャガイモは寒冷地でも栽培できるから、テラの気候でも十分育つと思うんだけど……


「原産地がなあ」


「原産地?」


 暁にテラでの事情を話した。


「そうか、海に近づけないから、アジア原産のものしかダメなんだ」


「そういうこと。まだ俺らで探しきれてないやつもあるかもしれないから暁も頼むな」


「了解! 俺のとこにはケルシー(地球の新疆ウイグル自治区カシュガルあたり)からの隊商も来るから、珍しいものがあったら持ってくるように頼んでおくよ」


 それにエキムたちは放牧であちこちに行くから、野生種を見つけてくれるんじゃないかって期待してるんだ。

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