追加エピソード5 パルフィと穂乃花さん

これは、追加エピソード3のあと、エキム家族がタルブクに帰って間もなく頃のお話です。

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「なあ、樹。穂乃花さんの様子が変なんだけど、パルフィに何かあったんじゃないの?」


 夕食を終え、のんびりお茶を飲みながらカァルの背中を撫でてあげているときに、竹下が話しかけてきた。


「パルフィか……、ちなみに変って、穂乃花さんどんな感じなの?」


「俺に話したいことがあるみたいなんだけど、それを話していいものか悩んでいるみたいなんだ。もしかしてカインで何かあったの?」


 竹下のあちらの人格のユーリルは、温泉がある場所に新しい街を作る打ち合わせのために、コルカの村長むらおさのシドさんのところまで行っている。カインの様子は、僕が伝えたり、穂乃花さんが一方的に繋がっているパルフィの目を通して見たことを竹下に教えているんだけど、言い淀んでいるのなら心配にもなるだろう。


「カインは平和なものだよ。ただ、パルフィは……この前エキムが来た時に会ってたでしょう。そこで手裏剣や苦無くないの形状について話していたんだけど、結局日本刀のことについても聞いちゃったらしいんだよね」


「日本刀……そうか。パルフィ、作りたくてたまらないんだ」


「たぶんね。穂乃花さんもそれがわかるから竹下に言いたいんだけど、そうなるとパルフィが穂乃花さんと繋がらないといけなくなるかもしれないから、言いにくいんじゃないかな」


 暁は日本刀を作るには特殊な材料である玉鋼たまはがねと特別な技術が必要だと言っていた。たとえパルフィが優秀な鍛冶屋だとしても、そこに至るまでには一生かかっても難しいんじゃないだろうか。穂乃花さんはその事はわかっているけど、パルフィの自分で見つけたいという気持ちもわかるから、悩んでいるんだと思う。


「明日にでも穂乃花さんと相談してみよう」








 翌日、テラで目を覚ました私は、いつものようにサクラと一緒に織物部屋に行き、休憩がてらラザルとラミルの様子を見に来たパルフィの様子を見ている。


「ソルさん。パルフィさん、育児疲れでしょうか? ラザルとラミルがパルフィさんに一生懸命にルフィナの事を話していますけど、反応できてませんよ」


 私の隣でアリスにお乳をあげているルーミンが心配そうに聞いてきた。


「育児疲れではないみたいなんだけど……これは結構重症かも」


「原因は何ですか? ユーリルさん、コルカでしょう? 大丈夫でしょうか?」


「私が何とかしてみるよ」







「すまねえな、ソル。今晩こいつらと一緒にお世話になるぜ」


 その日の夜、パルフィはラザルとラミルと一緒に私の家に来てくれた。パルフィの家はユーリルがコルカに行っているし、私の家はリュザールがビントに交易に出ていて夜はサクラと二人で過ごす予定だった。それなら、パルフィたちを呼んで、一緒に子供たちの面倒を見た方が何かと都合がいいと思ったのだ。


「気にしないで、私も助かるから。それにしても、まさかルーミンまで来るとは思わなかったよ」


「ふふふ、こういうイベントには参加しないとあとから後悔しますからね。それにここならお母さんが三人もいます。夜も安心です!」


 確かに、一人で見るより二人、二人で見るより三人で子供たちを見た方が間違いないよね。


「でも、ジャバトは一人で寂しくないかな」


「まあ、そんな感じはしてましたが、今日くらいは一人でゆっくり寝たらいいんですよ」


 アリスちゃんは六か月くらいだから、まだまだ夜泣きするんだろう。ルーミンはジャバトをゆっくり休ませるつもりらしい。


「じゃあ、ご飯の用意しようか。そろそろみんなお腹空いたって言う頃だよ」


 今はこの子たち大人しくしているけど、時間になったら一斉に泣きだすんだよね。






「樹、すまねえ。昨日は助かった!」


 翌朝、東京の家で目を覚ました僕のところに、穂乃花さんが真っ先にやってきた。


「何かあった?」


 事情を知らない竹下に、昨日カインでの出来事を話した。


「パルフィのやつ、どうしたら日本刀が作れるかばかり考えていて、ラザルとラミルの事がおざなりになってんだよ」


「おざなりと言っても少しぼんやりしているだけだよ」


 竹下に慌ててフォローする。


「いや、こういう時こそ取り返しのつかねえことが起こるんだ。昨日はソルが気を利かせてくれて、一緒にいてくれたから何も無かったが、これからはどうなるかわかったもんじゃねえ」


「ありがとう、樹。俺がそばにいれたらいいんだけど、すぐに帰れそうにないし、帰れたとしても三日はかかるんだよな……」


「なあ、樹。いっそのことあたいとパルフィを繋げてくれねえか。見ているだけじゃ歯がゆいし、パルフィもこのままじゃいけねえって分かっているからよ」


 凪と海渡の時もそうだったけど、片側だけ繋がっちゃうと結局そうなっちゃうんだろうな。


「穂乃花さんがいいのなら、僕は構わないけど、パルフィにも話してみるね」








「そうですか、パルフィさんと穂乃花さん繋げちゃいますか」


 翌日、織物部屋からの帰り道、ルーミンに事情を話す。


「今日もパルフィが泊まりに来ることになっているから、そこでちゃんと説明してからだけどね」


 どうしようもない場合を除いて、話した結果、パルフィがどうしてもいやだと言ったら、いくら穂乃花さんが望んでも繋げちゃいけないと思う。あくまでもパルフィと穂乃花さんは別の人間なのだから。


「私も海渡と繋がった時のことを、昨日ことのように思い出しますよ」


「あの時は海渡たちが壊れそうだったから、ルーミンに聞かずに繋げちゃってごめんね」


「いえ、私の方もカインに来てから変な感じがしてました。たぶん、あのままだったらこちらもおかしくなっていたかもしれません。おかげで男の気持ちもわかるようになりましたからね。ソルさんには感謝してます」


 そう言ってくれると助かる。


「うーん、私も泊まりたいけど、二日連続は……さすがに今日はジャバトと一緒にいます。しかし、決定的な瞬間にいないとはユーリルさんらしいというか……」


「うん、ちょうどのときに近くに入れないのを竹下が悔しがっていた」


「ん? ふと思ったんですが、パルフィさんが穂乃花さんと繋がったらすごいことになりませんか?」


 東大でもトップクラスの頭脳を持っている穂乃花さんと一流の鍛冶職人のパルフィ……なんでも作っちゃうかも。


「……なんだか怖くなってきた」


「やめときます?」


「い、いや。本人が望むんだったら……危ないときは私たちで止めよう」


 暴走しないように見守っておかないといけないかも。


 その日の夜、パルフィと話をした私は、パルフィと手を繋いだまま眠ることになった。






「樹! ありがとな」


 次の日の朝、居間で竹下と穂乃花さんがどうなったか話していると、当の穂乃花さんが縁側から飛び込んできた。


「穂乃花さん、繋がりました?」


「ああ、これまで見ることしかできなかった鍛冶のことがつぶさにわかる。それに剛のことも改めて……」


 そういうと、穂乃花さんは竹下に熱い抱擁を交わした。


「えっと、そういうのは二人っきりの時にお願いします。でも、無事繋がってよかったです。パルフィさんも大丈夫ですよね」


「たぶんな。とにかく今は日本刀のことが知りたい。あたいも少しは調べていたけど、パルフィの記憶を得ちまったからな。あんな表面的な物じゃだめだ……素材から作らないと……誰に聞けば……そうだ、遠野!」


「ちょっと待って! まだ日が昇ったばかりです。さすがに早すぎます!」


 抱きしめていた竹下を離して、お縁から出ていこうとする穂乃花さんを止める。


「しかし、居ても立ってもいられねえんだ!」


 これは、間違いないパルフィだ。


「確かに遠野先生や暁なら日本刀を作っている人を知っていると思います。僕たちで段取りをしますから、穂乃花さんは待っていてください。ねえ、竹下」


「あ、ああ」


 穂乃花さんとパルフィを繋げたのはいいけど、これはなかなか大変かもしれないぞ。

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「樹です」

「竹下です」

「「いつもお読みいただきありがとうございます」」


「先が思いやられる」

「パルフィだけだと思ったら穂乃花さんまで同じになるとは思わなかった」

「穂乃花さんの方に寄るかと思ったらまさかのパルフィ側だったね」

「俺だけじゃ無理だから、樹、穂乃花さんの暴走止めるの手伝ってくれな」

「う、うん。出来る限りやるけど……風花にお願いしよう」

「ああ、それがいいかも。ところで樹、次回は?」

「次回は未定だそうです。前回の予定では12月頃だったので、少なくともその頃には更新すると思います。もしかしたら今日のような突発的更新もあるかも……」

「マジか、うかうかしてれられんな」

「「それでは皆さん、次回もお楽しみに!」」

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