第17話

「結局私たちは軍のどこに入るんだ?」

「そこまでは知らんな。明日にはあの女から伝えられると思うぞ」


 あの女、とは天音のことだろうか。船本の幻術はどんな能力かよく知らないが、かなり役に立つと思う。まあ死なないように適度に頑張るか。


 さて、念願の温泉だが男女別々になっている。素晴らしいと思う。ただ、俺は今女だから女湯に入るということになる。

 それは少し抵抗があるが、まあこんな辺鄙なところだ。別に他に入ってる人なんていないだろう。

 そんなことを考えながら俺は更衣室に入る。


 一応更衣室ではあるが、別に温泉と仕切られているわけでもない。俺はちゃっちゃと脱いで温泉につかることにした。


 人影がある。体は女とはいえやはりジロジロと見るのは紳士的でないだろう。チラ見にしておく。


 そこには、船本がいた。


 互いに硬直。そしてゆっくりと船本は口を開いた。


「……泉山。ここ、男湯だぞ……」


 ドン引き、という顔をしている。俺は逃げ出した。






◆ ◆ ◆




「あ、泉山さん」

「あー、鎌戸さん」


 女湯に入ると想定外の人物がいた。別れて数時間なのにもう会うとは。


「鎌戸さんは1人旅なのか?」

「そうですよ」


 武術の心得というのも無いようだし、木兵衛のような勘違いではなく明確な悪意をもって村上に近づく人も多いだろう。少し心配になる。


「鎌戸さん。ここが数日後には戦場になるってのは知ってるよな?」

「そ、そうなんですか!?」


 ……本当に心配になる。危機管理能力が皆無というか、なんというか。


「そうだ。だからこの阿束に来てすぐなのはわかるけど、早く別の場所に移動した方がいい」

「そうだったんですね……。でも大丈夫です! ボク危険になったらすぐ逃げるので!」


「……ま、できるだけ急ぐことをオススメするな」

「そういえば、泉山さんはどうなされるのですか?」

「私は一応関係者だからな。ここで戦うのさ」


 なるほど、と言い考え込む鎌戸。

 まあこれぐらい言っておけばすぐ移動してくれるだろう。

 その後は特に会話もなく10分ほど温泉につかっていた。ただこの体では珍しい温泉だ。少しのぼせてくる。

 俺は温泉を出て部屋に戻ることにした。


「じゃあ、鎌戸さん。元気で」

「はい! 泉山さんも!」


 一緒に香料店を探したからだろうか、最初の時より明るい。やっぱり元気なことはいいことだよなあ、と微笑ましく思う。

 服を着て、更衣室から出る。


「あ」


 そしたら、船本とばったり会った。気まずい雰囲気。

 船本は口を開いた。


「……泉山。お前は全裸を見せたがる変態ではないんだな?」

「当たり前だろ!」


 いつぞやの川での意趣返しだろうか。してやられた。

 俺はため息をつく。


「……まあ、行くか」

「そうだな」


 この前の件を含めお互い様でノーカウントだ。女子の体になっているということを絶対時忘れないようにしよう、と深く、とても深く心に刻むことにした。


「そういえば、船本はなんで岡本について行ったんだ?」


 ふと、疑問に思ったので聞いてみる。岡本は領民家来共々裏切ったという。そこまで嫌われている岡本に、なぜ船本は従っているのだろうか。


「なぜだろうな。私にも分からない」

「そうか」


 笑いながらそう言う船本。嘘では無いのかもしれないが、心の底を話してくれるているようには思えない。

 まあ考えてみたらそうだ。色々あったが、まだ出会って数日の他人なのだから。


「泉山の主人はどんな人だったんだ?」


 今度は船本からだ。


「どんな人、ね。それは本当にわからないな。何を考えているかわからない人だったし。……ああ、ただ西洋の血が入っているだがで特殊な力を使っていたな」

「なるほどな。西洋の力か。それで、秋山寺正に狙われたってことか」

「いや、私には弟がいるんだけどその弟が言うには自分の命令だ、って言っていたな」


 どんな考えでそんなことを命じたのだろうか。サヴァシュまで連れてきて、なぜ自分の生まれた家を襲撃できたのだろうか。


「私はその弟くんを知らないが、何も考え無しに行動する人物じゃなかったんだろ?」


 頷く。少なくとも屋敷にいた時は思慮深い子だったと覚えている。なんであんなのになったのかはあまりわからない。思春期とはおそろしいものだ。


「じゃあ、何かほかに理由があったんじゃないか? 何かを庇うために、自分を悪役にしたとか」


 たしかに、昔の性格を考えると船本の言う理由の方が納得がいく。


「もしそうだとしても、あいつは悪だよ」


 ただ、それだけは自分の中ではっきりしている。どんな理由があろうと悪であると。

 許せない。ただそんな悪に負けた自分だ。さらに強くなって、圧倒しなければいけない。そのために俺は数日後に始まるであろう戦いに参加するのだ。


 そう考えたら、戦いに参加する理由が心で納得出来た。

 岡本の復讐でも、流れに任せるというわけでもなく自分が強くなるために戦う。俺は今、そう決めた。


「ありがとう、船本」

「よく分からないが力になれたならよかったよ」


 船本は本当に良いやつだ。

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ゲームの世界にTS転生したけど、俺が知らないことしか起きない @GON_NO_SUKE

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