第50話 面会

 官邸五階、中央の吹き抜けを囲むように造られた石庭が神秘的な雰囲気を感じさせるこのフロアには、総理執務室や応接室、官房長官室などの部屋が並んでいる。


「屋内に石庭とは、なかなか趣があるね」


 俺のすぐ後ろを歩く立華りっかが石庭を眺めながらそんな感想を漏らす。


「ところで、どうして君だけ官房長官に呼ばれたのか何か心当たりがありそうだね?」


「なんでそう思うんだ?」


「普通、官房長官に呼ばれてるなんて言われたら驚きそうなものなのに、キミは動じた様子もなかったからね。ひょっとして呼ばれる事は想定内だったのかなと思ったのさ」


 よく見てるな。と俺は思わず感心してしまった。

 

「まあ、すぐにわかるさ」


 そう言って俺は官房長官室の扉を叩く。


 中から返事があったのを確認し、俺は扉を開ける。


 室内は落ち着いた色合いで統一されており、奥に配置された綺麗な木目調のデスクにこの部屋の主が座っていた。


「久しぶりだな煉」


「何の用だよ、父さん」


 俺がぶっきらぼうに返事をすると立華が驚いた様子でこちらを見る。


「まさか、親子だったのか?」


「ああ、そうだよ」


 俺がそう答えると立華は「なるほど」と得心がいったのか一人頷いていた。


「君が立華か。話は聞いているよ息子が世話になってるようだね」


「いやいや、こちらこそ世話になってるよ」


 官房長官相手に普段と変わらぬ不遜な態度でそう答える立華。


「それより用件は何だよ」


 俺は少しでも早くこの場から退出したい思いから、とっとと用件を言うよう促す。


「全く、久しぶりに会ってそれか。まあ座れ」


 座るように促され立華はソファに腰を下ろすが、俺は長居する気はないという意思表示のため、あえて座らなかった。


 父さんはそんな俺のささやかな抵抗を見て、呆れながらも話を始める。


「今回の警備だが、お前は任務に加わらなくていい」


 突如として告げられた言葉に、俺は思わず目を丸くした。


「は? どういう事だよ」


「なぜ私がお前のいる大隊を呼んだと思う。お前を私の目の届く場所に置いておく為だ」


「なんだよそれ! 意味がわからない」


 俺は思わず声を上げて抗議した。


「わからなくていい。とにかくお前は私のいう事を聞いていればいい」


 何の説明もなしに一方的に命令する父親に対し、俺は怒りが込み上げてきた。


「父さんはいつもそうだ。俺が奏霊士になるって言った時も反対した」


「それがお前のためだからだ」


「俺の意思も尊重しないで何が俺のためだよ! そんなの父さんのエゴだろ!」


 俺が声を張り上げると、父さんは俺の方をキッと睨むように見る。


「なら聞くが、何故おまえは奏霊士になりたがっていたんだ」


「小さいころ誘拐された俺を助けてくれた人に憧れて、俺もあんな風に人を助けられる様になりたいって……そう思ったからだよ」


「だがその男も戦場では人を殺す。奏霊士はヒーローじゃない。奏霊士を神格化しているお前の方こそエゴなんじゃないのか? おまえのような覚悟のない奴がなっていいものではない」


 悔しいが俺は何も言い返す事ができなかった。


「まあいい、とりあえずしばらくは大人しくしていろ。今後の事については追って連絡する」


 そうして一方的に面会は打ち切られ、俺と立華は部屋から退出する事を余儀なくされたのだった。

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幻世天球儀 KOUJIRO @tsurunosato

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