第49話 官邸警備
任務のため東京へ来た俺たちは庁舎に荷物を置いて首相官邸へと向かう。
「せっかく東京に来たんだから、どっか遊びに行きたいっすねー観光とか、買い物とか」
官邸までの道すがら、
「ふぅむ、私は秋葉原に行ってみたいかな」
小嶺の提案に
「あのなあ、遊びに来たんじゃねえぞ」
そんな二人を
「そもそも何でうちらが官邸警備に回されたんすかね」
「さあな、お偉いさんにでも聞いてくれ」
男鹿大隊長は投げやり気味にそう答える。
「本当に官邸が襲撃されるなんて事あるんですかね……」
不安そうな顔で
「目的がクーデターなら官邸や要人が狙われる可能性はあるな。過去の五・一五事件や二・二六事件のようにな」
朝日奈中隊長が冷静な表情でそう答える。
「皇居もっすか?」
「ああ」
現在、官邸同様皇居も警備が厳重になっている。いつ何が起きてもおかしくないという事だ。
「皇居まで襲撃対象ってことですか? そんな事ありえるんですか?」
俺は思わず聞いてしまった。皇居を襲撃するなんて、いくらなんでもそんな暴挙を犯すのだろうかと。
仮にクーデターが成功したとしても国民からの支持を得られるとは到底思えない。
「別に驚く事じゃない。実際、明治政府などは薩摩や長州ら諸藩が御所を取り囲み帝を担ぎ上げる事で誕生した様なものだからな」
「長州なんて御所に発砲した事もあるくらいだしな」
朝日奈中隊長の言葉に男鹿大隊長が補足した。
そういえば歴史の授業でそんな事を習ったような気もする。だが、今の時代そんな事が起こり得るのだろうか。
「もしかしたら私たちは歴史の転換点にいるのかもしれないね」
隣を歩く立華がそう呟いた。
確かにそんな事が起これば教科書にのるような大事件になるだろうな。結果次第ではその後の歴史も大きく変わるかもしれない。
「なんかそう考えたら燃えるっすね。歴史に名前が残るかもしれないっすよ? 反乱を鎮圧した英雄、朝霧小嶺みたいな」
「……単純バカ」
一人で勝手に盛り上がってる小嶺に
「歴史に名が残るかはともかく、僕らの仕事は責任重大ですね」
「まあ、そういう事だな」
官邸に着くとまず目に入ったのが官邸のシンボルである切り出した大きな自然石と大勢の警備兵の姿だった。
正面玄関へと入ると、中は天井の高いエントランスホールが広がっており、正面のガラス越しに中庭の竹林が見える。
「へー、官邸内って初めて入ったけど、こんな風になってるんすね」
物珍しそうに辺りを見まわして、感嘆の声を上げる小嶺。
ちなみに、ここ正面玄関は一階だと思われがちだが、実は三階なのだ。
官邸の敷地は、東側と西側の高低差を利用した造りとなっている。そのため高台側に位置する東側の正面玄関は三階になるのだ。
「おい、行くぞ」
男鹿大隊長は、お上りさんの様にキョロキョロしている小嶺に声をかけるとエレベーターの開閉ボタンを押す。
「あ、ちょっと待ってくださいよ」
エレベーターの扉が開くのを見て小嶺が慌ててこちらに走ってきた。
男鹿大隊長は、全員が乗ったのを確認するとB1のボタンを押す。
エレベーター内で揺られること数秒、扉が開き地下一階に着いた。
官邸地下一階には官邸危機管理センターがあり、有事の際には対策本部が設置される。
男鹿大隊長を先頭に、俺たちは危機管理センターへと足を踏み入れる。
「来たか」
俺たち一団が入ってくるなり、一人の人物がこちらへと近づいてきた。
「警備隊隊長の永田だ。よく来てくれたな男鹿大隊長、協力感謝するよ」
永田隊長は柔和な笑みを浮かべ謝意を示す。
「いえ、それで我々の担当場所は?」
「うむ、君たち第十一霊能大隊には官邸北側の警備を担当してもらう。それと便宜上、君たちは私の指揮下に入る事とする」
てっきり正面玄関か裏門のある西側の警備にあたることになると思っていたが、北側とはまた随分と中途半端な場所だ。
「それと
それを聞いた大隊の数人が不思議そうに俺の方を見る。
「あ、えっと……ちょっと行ってきます」
そう言って俺は皆の視線から逃れる様に退出し、管官房長官室へと向かった。
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