理想の像
黒心
理想の像
頭から数出る夢に手を伸ばす。しゃぼん玉のように消えていく。掴め、その夢を。果てしなく噴き出るあわあわに、埋めれて窒息してしまわないように、この先に進む。割れないガラス玉は偽物で、洗うな手につく洗剤を、それは膨らむ風船である。
ノートに書かれた俺の文句は負けず嫌いが生み出した意地だったに違いない。何故なら今、俺は焦げたノートを手に一人公園のベンチに座っているのだから。
便利な機械が世界中に拡散する中に取り残された団地の近くにある公園は俺のお気に入りの場所だ。当時、公園の朝は正面から日が上り、夕方になると誰もいない団地のビルから光が漏れてくる。毎日繰り返される光景に変化のない不朽さを感じた。見つけた小学生の好奇心を憎くみたい気もする、この場にいると酷く虚無感を覚えてとても人生が惨めに思えてしまう。しかし俺の人生をきちんと見返せば、スポットライトの当たる人生ではないけれど、普通よりはいい人生を歩めているのではないだろうか。
少年心を振り返ると、俺はあそこのビルを探検すべきなんだろう、立つ気力に、それなりの好奇心があれば。ちょうどこのノートを書いたぐらいだったかな。俺は夢を見たつもりだった、壮大で、無限に広がる希望を孕む、一人の少年を遥かに彼方に飛ばす輪ゴムぐらいに。実際は、希少価値のないものだったわけだ。いや、どうだろうか。数々の名言が俺を否定していくから自信がない。夢に破れるだなんて決まり文句があるがほとんどは逆転するし、盛大な拍手をもって夢をかなえた人もいる。希少価値なんて俺が逃げた証の言葉なんだ。
少年時代の文句は俺を桃原郷へ──昔はそうだった──走らせた。変わり果てた街並みに、暗くなった路地裏を駆け抜けて、出口にあった高級車を踏み越えた。山に登る道はいまだに土砂崩れの跡がのこっており、アスファルトは一部、いや三割ぐらいなくなっていた。時間が経っても変わらないものはなかった。団地のビルから人は消え、売り物件となっているであろう部屋は外から見ると大きい蜘蛛の巣が張っていた。
現実は過去の繁栄である。
俺はポケットからボールペンを取り出して焦げたノートの生きている部分を探した。ちょうど最後のページは白い部分が大々的に残っていた。西陽にあたり、深い影を作るブランコの錆を傍目に俺は堂々と、少し焦げた白紙を盛大に黒く塗りつぶした。朽ちかけのベンチに折ったボールペンと汚いノートを置く。
一服。
タバコをそこに立てて後にした。
やはり、俺は負けず嫌いらしい。
理想の像 黒心 @seishei
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