世界と杏輝:Ⅰ

大月旦

第1章 始まり

 

老人「時は満ちた。待っててくれ。杏輝あきら。」

  その老人の背後に巨大な化け物がいる。


杏輝「...かい。せ..い。世界!」

世界「ぶわぁ!何時!」

杏輝「もう七時!」

ドタドタと学校の準備をする。

秀明「おやおや、焦らずに...」

世界「叔父さん、今日いたんだ!あ、やべぇ!」

世界はパンを咥えながら杏輝を追いかける。


 世界「はぁ〜、疲れだぁ!」

 杏輝「んぅぅぅ、はぁぁぁぁぁ!」

 二人は河川敷でごらんと寝転がる。

翔太「空が、鳴いてる。」

 翔太は空を睨みつけて言う。

 世界、杏輝「え?」

 翔太「何か...くる。」

 杏輝「どしたの?翔太。空は何もないよ?どっか悪いんじゃない?」

 翔太「いや、そんな事は...」

 世界は目をつぶる。

 その瞬間、世界も何かを感じる。宇宙船のようなものにロボットのような化け物が沢山乗っているのを。

 世界「ほ、ほんとだ。何か..来る!?」

 立ち上がった瞬間、空の色が暗くなる。

『ボォォォォォォォンンンンン!!!!』

 何か鯨のような遠吠えが聞こえる。

 翔太「な、なんだ!?あれはぁ!都心の方に向かってる!?」

 その瞬間、強風が吹き、地震が起きる。

 杏輝「きゃぁぁぁ!」

 世界、翔太「うぁぁ!?」

 世界「杏輝!手を!」

 世界が杏輝の手を掴むが、地面が崩れる。

 杏輝「きゃぁぁぁっ!世界ぃ!」

 世界「あっあきらぁぁぁ!」

 翔太「世界!危ない!お前も巻き込まれるぞ!」

 二人は河川敷から離れ、川に落ちた杏輝を探す。

 杏輝「ぷはぁっ!はぁはぁ、せかっ...」

 世界「杏輝!今助かるから!」

 翔太「杏輝!木に捕まれ!」

 杏輝は大木に捕まり、二人は杏輝を助け出した。

 杏輝「ゲボッゲホッ!うぅ!」

 世界「あ、杏輝!ど、どこか痛むの!?」

 杏輝「あ、足。挫いちゃって。」

 翔太「二人とも待っても。誰か呼んでくるよ。」

 世界「あぁ、頼む。何かあったら連絡する。」

 しかし、翔太は1時間経っても帰ってこず、電話しても出なかった。

 杏輝が小声で呟く。

 杏輝「せかぃ。こわぃよぉ。」

 世界「杏輝。大丈夫。僕が守るから!」

 杏輝「パパ、大丈夫かな。家帰りたい。」

 翔太にメールし、世界は杏輝をおんぶして、自分たちの家に帰ることにした。

 しかし、家は巨大な岩に潰されていた。

 世界「そんな..叔父さん。」

 杏輝「いゃぁぁぁ!パパぁ!」

 杏輝が焼けている家の中に入ろうとする。

世界「杏輝っ!あぶっ!」

その瞬間、ズシンと揺れる。

家の右前の通路から白い巨大の化け物が現れた。

そして、それを見た僕たちは『死』を直感した。

世界「あっ...うぁ...」

その目は世界を恐ろしいほど怖がらせた。

腰を抜かして動けない。体が震えている。

杏輝「せ、せかぃっ....」

涙を流しながらこっちを見てくる。

世界は河川敷で杏輝を守ると約束したことを思い出す。

その化け物は槍を生成し、杏輝に刺そうとした。

世界「杏輝っ!危ないっ!」

間一髪で避け、ある家の三階の窓に隠れる。

化け物が通り過ぎるのを待つが、都心の中でも割と大きい家なのだが、それでも化け物の顔が見えない。

ズシンという足音が急に止む。

その瞬間、化け物は左手で窓からえぐりとるように家を壊した。

二人は間一髪で助かるが、

泣き叫んでいる。

翔太「おら!こっちだ!」

翔太が銃声を化け物に浴びせる。

世界「翔太?」

化け物は翔太を襲うが、バランスを崩して倒れる。

世界「翔太!!」

翔太「世界!杏輝!無事だったか!」

世界「翔太!よかった!よかったぁ!もぉ、死んじゃったかと....」

世界は翔太を強く抱きしめる。

翔太「とりあえず!避難しよう!」

3人は化け物の前を通り過ぎたときだった。

仮面の男「へえ。まだ生き残りいたんだ。」

白い仮面に黒衣を着た男が上空から話しかけてきた。

翔太「誰だ!親玉か!」

発泡するが、驚いた事にその男には全く効いていなかった。

仮面の男「名も名乗ってないのにいきなり攻撃するなんて...」

一瞬で消えたと思うと、すぐ翔太の前に来て仮面の男「君、生意気。」

そして、右足で翔太を蹴り飛ばす。

翔太は三十メートル先のレストランの看板に強く当たり、そのまま倒れるとびくりともしなくなった。

世界「翔太!」

仮面の男「君、他の人とは違う匂いがするし、違う色してるね?」

世界「え?うぁ...」

仮面の男「そんなに怯えないでよ。それにそこの女の子も良い匂いだし、良い色だ。」

世界「あ、杏輝は!絶対渡さない!」

仮面の男「へぇぇ、カッコいいねぇ!んー、でもなぁ。あ!そうだ!こうしよう!」

世界「え?」

仮面の男「君たちは歓迎するよ。みんなにも合わせてあげたいんだ!君たちの命も保証するよ!どう?」

世界「い、行くわけないだろ!ぼくの親友も殺して!うわぁぁぁぁぁぁ!」

世界は仮面の男に殴りかかる。

しかし、右腕が切断されてしまった。

世界「腕がぁぁぁぁぁ!うぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

ボタボタ出血し、その場にうずくまる。

仮面の男「はぁ〜、見損なったよ。やっぱ人間って馬鹿だなぁ。でも、ちょっと楽しめたから死ぬなら美しい死に方が良いよね?」

その男は上空に移動し、紫色の美しい氷の槍を生成する。

仮面の男「少しの間だったけど面白かったよ。」

世界はもう終わりだと思い、目を瞑った。

その瞬間、何か嫌な音がした。

ゆっくり目を開けると杏輝が身代わりになってその槍を受け止めていた。

その槍は杏輝の腹部を貫通していた。

杏輝「ゲホッ!」

口からも血を吐き出す。

世界「あ、きら?あ、あ、杏輝ぁ!」

仮面の男「あ〜!勿体無い!なんでそんな男を庇うかなぁ。まぁ、良いや。汚れたら欠陥品なんだし。じゃあ、後処理よろしく。」

先ほどまで倒れていた化け物が動き出す。

世界「杏輝!杏輝!しっかりして!死んじゃ駄目だ!す、すまない!守るって約束したのに...結局守られてばっかりだ!ぐぞぉぉぉ!」

世界は大粒を流しながら話す。

杏輝「...泣か...ないで?...生きて?...私の分まで...生きて?...」

世界「うん!うん!分かった!分かったからぁ、もうしゃべらないでぇ!」

杏輝「あな...たと..いれて...しあわせ..だっ..」

杏輝は最期、涙を流しながらゆっくりと瞳を閉じてしまった。

世界「杏輝?杏輝!ねぇ!起きて!起きてよ!杏輝!あ、あきらぁぁぁぁぁ!!」

化け物が世界に近づく。

世界「ぐぞっ!ぐぞっ!ぼくが強かったら、ぼくが二人を守れる存在だったならこんな事には!こんなぁぁぁ!!」

急に心臓が痛くなる。

ドクン!ドクン!と高鳴る。

化け物は槍を生成し、世界に狙いを定める。

世界「うぐっ!許さない!絶対、絶対、絶対許さなぁぃぃぃぃぃぃいい!!うぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

赫い雷鳴が世界の方に落ちる。

仮面の男「なにっ!?」

世界「うがぁぁぁぁぁぁぁ!ぁぁぁ!ううう!あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

赫い雷鳴が世界に纏わりつく。

すると、光り輝き、赫く神々しい核のような塊が世界を覆う。

そして、ゆっくりとその核が解き放たれる。

世界の体中に赫い線が浮き上がっている。それはまるで血管を可視化したようだった。

黒髪も殆ど赤髪に変わり、目の色と形も変わった。

無くなった右腕も元に戻っている。

しかし、世界自身は何も感じていなかった。いや、感じていられなかった。ただ、仮面の男に対する怒りでいっぱいだったのだ。

化け物は再び槍を世界に向かって刺す。

「ドガァン」とその槍の威力と化け物の筋力は凄まじい。

しかし、その場に世界はいなかった。

世界は杏輝を抱えて、翔太の隣に寝かした。

世界「ごめん...二人とも...終わったら、終わったら、三人だけの...世界を創ろう。」

仮面の男「いいねぇ!美しい!美しいよ!益々君に興味が湧いた!ほら!これはどうかな?」

男は指を鳴らすと周りにいた化け物たちが凶暴化する。

「ぼうぉぉおおぉぉぉぉぉんんんん!!」

口がバカッと開き、目が黒色から赤色になる。

十体の化け物が世界に襲いかかる。

世界「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

世界は叫ぶと全体に衝撃波と紅黒い電撃が走り、地震のような衝撃音が鳴り響く。

仮面の男「えっ?な、にが?」

全ての化け物の体が焼き裂かれている。

仮面の男「なっ!ぜ、全滅!?」

世界はゆっくり立ち上がり、仮面の男を赫い眼差しで睨みつける。

仮面の男が瞬きした瞬間、自分の目の前に現れた。

仮面の男「なっ!くっ!は、速い!(この私が目で追えなかった!?)ぐぅっ!調子に乗るな!」

世界の顔面を殴る。

しかし、全く効いていなかった。

男の腹部に世界の左腕が貫通する。

その威力は後方の街まで衝撃波で粉々にしてしまうほどだった。

仮面の男「ごぼっ!ぐはっ!な、なんて強さ!そして、美しい!」

世界は右手で男の顔を掴み、左腕を抜く。

世界「貴様が誰だ。」

男「私はメルジア。」

世界「白い巨体はなんだ。」

メルジア「殺戮の人造兵器オルフェウスと呼んでいる。実験中だが。」

世界「お前は、翔太と杏輝を殺した。」

世界の手のひらに小さな赫い球体が螺旋状に回転し、その球体を囲むように輪っかができる。まるで、赫い惑星を表しているかのようだ。

世界「消えろ!」

仮面の男に押し出すと衝撃波が走り、男は吹っ飛ぶ。

仮面の男「あああああぁぁぁぁぁ!」

一直線に進み、球体が大きくなっていく。

そして、カッと赫く光り輝き、広範囲の爆発音が鳴り響く。

仮面の男「す、素晴らしいぃ!ははははっ!ぁぁぁぁ!!!」

爆発音の後は街や森がまっさらになっており、地面もまるで巨大隕石が激突したかのように深くえぐりとられていた。

世界は二人の元に戻る。

世界「やっと、終わったよ。翔太。杏輝。

う、ぐ、うぅ、うぁぁっ、ぐっ。」

大粒の涙を流しながら二人を抱きしめる。

どのくらい経っただろうか。

世界「風が心地いい。」

世界は誰かがこっちに駆けつけるのが見えるが、重くなるまぶたをだんだん閉じる。























  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

世界と杏輝:Ⅰ 大月旦 @ando0519

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ