第24話 お兄ちゃんは最終回です!
ジリジリと鳴り響く音の正体を指先で探り当て、その音を止めると、男はゆっくりと目を開けた。
窓から差す木漏れ日が心地よい。木で出来た天井は、それを見上げるだけで、安らぎを得ることが出来る。
「ここは…。」
男がそう呟くと同時に、ガチャガチャと音がして、すごい勢いで人が走ってきた。
「うおわっ!」
「お父さんただいまー!」
お父さんとは誰のことだ。理解が追い付かない男は、その後の言葉で更に混乱する。
「こら!タク!外から帰ったら先に手を洗いなさい。それに、お父さんはお仕事で疲れてるの。ゆっくりさせてあげて。」
どこか聞き覚えのある声に、男は自然と声を発する。
「アリ…ス…。」
なぜその名を口にしたのか、男にも分からない。
「なに?」
その女性は、そう呼ばれるのが至極当然であるかのように、きょとんとして顔を覗き込んできた。
「なぜここにいるんだ?」
男は続けて尋ねる。
「なぜって、一緒に暮らしているからでしょ?熱でもあるの?」
「あ、ああ…。」
男が必死に絞り出した返事は、言葉にもならないような、ただの相槌であった。
「パパどうしたの?」
「エリーナ…。」
ふと、アリスと呼んだ女性の足元を見ると、小さい少女が、既視感のある瞳を潤ませて、こちらを見ている。
「ひどい!パパが名前間違えた!」
そう言って泣き出す少女を、アリスがあやして訂正を促す。
「やーねー。エリーナじゃなくてエリだもんねー。」
今度はアリスが、キッとした顔を男に向けて、睨みつける。
「寝ぼけてるなら顔でも洗ってきなさい。」
そう言われると自然と体が動き。洗面台まで辿り着くことが出来た。ジャバジャバと顔を洗い、濡れ顔を鏡で凝視していると、先程のタクと呼ばれた少年が、手に玩具を持ちながら近寄ってきた。ただ正確には、手を洗う為に洗面台に来たら、鉢合わせたと言った方が正しい。
「ねえ見て!これ!かっこいいでしょ!」
ボタンを押すと、光りながらセリフを吐く剣の玩具である。
「これでデュランダルになれるんだよ!」
「デュランダルだって?」
男はなぜか、その名前を繰り返す。
「そうだよ!聖剣戦士デュランダル!」
「なんだ?それ。」
「パパが買ってくれたんじゃん…。」
ひどく残念そうな顔を浮かべながら、少年は剣を男に渡し、走り去ってしまった。
「デュランダルかぁ。どこかで聞いたような。」
「シャキーン!我こそが聖剣に選ばれし勇者なり!なんちゃってな。ハハハ。」
子供のように剣を構えて一通りセリフを吐いた自分の幼稚さに苦笑しながら顔を上げると、アリスが怪訝な顔をしながら立っていた。
「おわぁ!いるなら言ってくれよ…。」
「あなた本当に熱でもあるんじゃないの?」
「い、いや大丈夫だよ…。」
「はぁ、ならいいけど。」
そう呆れるアリスは、何だか冷たい。
「そういえば、前にもこんな冷たい態度を取られた記憶が…。」
そう思い出しかけた時、少し頭に痛みが走った。
「アリス。やっぱり少し頭痛がするんだ。」
「あら、薬あげましょうか。」
「うん、頼むよ。」
薬を受け取ろうと手を伸ばすと、指に光る装飾品が視界の端に映った。
「そういえば、あなたもうすぐ誕生日ね。何か欲しいものある?」
「うーん、そうだなぁ。」
男は、指を開いて装飾品をまじまじと見つめながら、一呼吸おいて、アリスに言った。
「もう欲しいものは貰ってる気がするよ。」
「え?そんな筈は。だってまだ何も…。」
困惑するアリスとは反対に、男は、満足そうな顔をして、同じ指輪をした彼女の手から頭痛薬を受け取った。
異世界お兄ちゃん! ロボットSF製作委員会 @Huyuha_nabe
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます