第5話 聖夜

 ーーーとある街。


 しんしんと更ける深夜、街中はカップルで溢れかえり、家々では一家団欒の時を過ごし終えた家族が眠りに就いていた。


 今宵はクリスマスイブ。各々が最愛の人と共に幸せな時間を過ごす静かな夜である。

 街は今幸せに満ち溢れていた。


 この幸せな街が、ひとりの少女の悪戯によって恐怖のドン底に突き落とされるとは、誰ひとりとして予想だにしなかっただろう。

 今、この街は1000分の1のサイズまで縮んで小百合の部屋へと転送されていた。



 ズズン………!


 突然の地震に驚く人々。

 寝静まっていた者も飛び起きる程の揺れを感じた。


 こんな日に限ってまさかの地震か?

 なんて運の悪い………。

 そんな憂鬱とした思いをしていた人々の上空である変化が起きた。


 朝が訪れたのだ。

 時刻は午前0時。朝が来るにはまだ早い。しかし先程までは確かに暗かった夜空が、今はまるで真っ昼間のように明るくなっていた。

 街の人たちは皆混乱していた。

 そして、更に不可解な事態が人々を襲う。


「メリ~~、クリスマ~~~ッス!!」


 頭上から声が聞こえてきたのだ。それも、ライブ用の大型スピーカーの間近にいるようなとてつもなく大きな声。


 眩しい光を手でふさぎながら上空を見上げる街の人々。

 そこには、真っ赤な衣装に身を包んだ超巨大なサンタクロース………の格好をした女の子が笑顔で街を見下ろしていた。


 ポンポンの付いたサンタ帽子に厚手の赤い服、何故か下半身には何も履いていなかった。丈の長い服のお陰で膝小僧まで隠れてはいるが、丁度真下の位置にいた人々からは少女のまだあどけない秘部が丸見えだった。


 街の人々は目の前の光景を信じることが出来ずに、未だにその場に立ち尽くしていた。

 情報量が多すぎる。

 第一、こんな巨大な人間が存在する筈がない。

 百歩譲ってサンタが巨大化出来るとしても、何故白髭のお爺さんではなく女の子なのだろうか。理解に苦しむ。


 そんな人々の疑問に配慮したのだろうか、巨大サンタ娘はコホンと咳払いをしてから口を開いた。


「こんばんは!えーと、わたしはね、サンタクロースなのです!えー、今夜は街のみんなにね、クリスマスプレゼントをね、配りに来たのです!ホー、ホー、ホー♪………えへぇ♪」


 身体をくねくねさせながら説明をする巨大サンタ娘の小百合。今日この日の為にサンタのコスプレグッズを用意し、名乗りも練習してきたのだが、サンタになりきるのにはどうやらまだ恥じらいがあった様子である。


「………と、という訳で!早速皆さんにプレゼントを渡したいと思います!えへへ………楽しみですねぇ~♪」


 そう言って、にやけ顔で手に持っていた箱を街の隣にそっと置いた。

 この際にゴゴゴゴゴという轟音と共に小百合の巨体が街に急接近してきた為、街の人々は急激な気圧の変化に苦しみ悶えていた。

 そんな小人たちのことは気にせず箱を開ける小百合。


 中からはとろけるような甘い香りを放つ真っ白な巨大ケーキが出てきた。

 直径約1メートルの街の半分、50センチサイズの大きな生クリームケーキだ。

 最も、街の人たちにはあまりにも巨大過ぎてケーキの概念が崩壊しそうな程のサイズだった。


「クリスマスと言えばやっぱりクリスマスケーキだよね~♪さ、まずはろうそくを立てていきましょうね~。」


 小百合はそう話すと、おもむろに街の中心部へ手を伸ばし、手頃な高層ビルを地面から抜き取った。

 ビル周辺の小人たちは悲鳴を上げながら必死に逃げていたが、ビル内部にはまだイブの夜でも必死に働くサラリーマンたちが多数残っていた。


 彼らは窓の外へと放り投げられまいと必死に床に這いつくばっていた。

 暫くすると震動がおさまり、甘い香りがビルを包み込んだ。


 ケーキの上に高層ビルが突き刺さっていたのだ。まるでろうそくの代わりのように。


 一階入り口は生クリームの中に埋もれており、出入りは不可能になっていた。

 状況をいち早く把握した者は、次々と窓ガラスを割って低い階層から飛び降りて脱出を図った。

 だが残念なことに、ちいさなこびとにとって生クリームは沼のような足場となっており、脱出したこびとの半数は生クリームの底無し沼へと無惨に沈んでいき、もう半数は足や手をとられて身動きすら出来ずにいた。

 巨大ケーキの上で彼らはちいさなトッピングのように点々とくっついていた。

 彼らの助けを呼ぶ声は、遥か下に建ち並ぶ街の人々の耳には全く届かなかった。


「ふんふふ~ん♪」


 鼻歌を歌いながら次々と高層ビルをケーキの上にセットする小百合。

 等間隔に高層ビルを揃え終えると、今度は住宅街へと手を伸ばす。

 チョコの家の代わりである。

 小百合の巨大な指先で潰してしまわないように、慎重にケーキの上に運んでいく。


 やがて街のほとんどの建造物が巨大ケーキの飾りへと成り果ててしまっていた。

 床にあるのは最早街というよりも広大な僻地に近かった。


「よ~し、飾り付け完了っと!さぁ、皆さんお待たせしました!わたしの作った手作りケーキ、お召し上がれ~♪」


 準備を終えた小百合は箱の中からフォークを取り出すと、ケーキの一部を雑に抉り取ってかつてオフィス街だった街の中心部に笑顔でポイっと投げ捨てた。


 こびとたちの足で咄嗟に逃げきれる筈もなく、街の中心部にいた人々は巨大な生クリームの塊に押し潰されてしまった。運良く一命を取り留めた者もいたが、生クリームの沼から這い出ることは叶わずやがて生クリームの中で窒息死していった。


「あはっ、お味はどうかな?ちょっと量が多すぎたかな?」


 街の惨状を見つめながらニコニコと微笑む小百合。不意に小百合のお腹からぐぅ~と音が鳴る。


「う~ん、やっぱりちょっと多すぎた感があるよね……よし、じゃあわたしも食べるの手伝ってあげるよ!」


 その言葉にケーキの上へと運ばれた全員が耳を疑う。

 まさか………このケーキごと我々を?

 もしかして最初からそのつもりで?


 こびとたちの予想は的中していた。

 小百合は目をキラキラと輝かせながら、手に持ったフォークでケーキを突き刺してビルや家もろとも持ち上げていった。


 一口サイズになったケーキの一部の表面には何百ものこびとたちが囚われていた。

 彼らはこれから自分たちが運ばれるであろう場所に恐怖して全力でもがいたが、ちいさなこびとの力では生クリームから抜け出すことすら出来なかった。

 彼らは無力だった。


 やがて彼らの目の前に小百合の大きな唇が現れた。

 薄ピンク色の可愛い唇。サイズさえ普通であれば口づけでもしたい唇。

 その可愛い巨大な唇がゆっくりと上下に開く。中から生暖かい風が吹き出してくる。

 周囲の気温と湿気が一気に上昇し、汗がぶわっと噴き出す。同時に、甘いような臭いようなよくわからない匂いが辺りを支配する。

 そして開いた唇の中へ目を向けると、ビルのような大きさの白い歯と唾液で糸を引いた何本もの柱、そして奥から迎え出てくる赤く醜い肉の塊………小百合の舌が見えた。


 グロテスクな光景に悲鳴を上げるこびとたち。この微かに聞こえるこびとたちの声がなんとも堪らない。ある意味、最高の調味料だ。

 小百合はこびとたちの断末魔を存分に楽しみながら、ケーキを口の中へとおさめた。

 彼らの悲鳴は小百合の唇が閉じられると同時に聞こえなくなっていた。



 ※



「………ふぅ、もうお腹いっぱいだぁ。」


 ワンホールもあった手作りケーキは、成長期の小百合にとってはおやつに過ぎなかった。

 ケーキを全部たいらげた小百合は満足そうにお腹をさすっていた。


 その様子を床の上から見ていたこびとたちは、小百合の非人道的な行為に唖然としていた。

 街中の建物を巨大ケーキにくっつけて、中にいた人々と一緒に食べてしまったのだ。一体何百、何千人の人々があの巨人に喰われてしまったのだろうか。

 頭上で繰り広げられた大虐殺は、生き残っていた人々の脳裏にトラウマとなって刻まれていた。


「さてと……。」


 再び動きだす小百合。

 その場からすっくと立ち上がり、眼下の街だった場所の両端に足を置いた。


 ズシイィィィイインッ!!


 ズシイィィィイインッ!!


 さりげなく置かれた小百合の両足は、何の忠告もなくまだ大勢の人々が残っていた場所をしっかりと踏み締めていた。

 そこにいたこびとたちは逃げる猶予さえも与えられず、小百合の巨大な裸足に踏み潰されて足の裏を彩る赤玉模様へと化した。


 そんな足元の大惨事を気にも留めない様子で、小百合はゆっくりと街の真上でしゃがみこんだ。


 ズズズズズ………!!


 小百合がしゃがむにつれ、暗闇に包まれていた女性器がサンタ服の中から姿をあらわにしていく。

 お尻が地上に近付くにつれて大気が震え、只でさえ巨大な女性器が更に大きくなっていく。

 街を覆い尽くす超巨大サイズの臀部を目にした人々はその圧倒的な迫力を前に硬直してした。


 やがてお尻の下降が止まり、街の上空は超巨大少女の健康的な臀部で埋め尽くされた。

 小百合の艶かしい陰唇は街の何処に居ようとも見える程の大きさと存在感を誇っており、街全体に少女の陰部特有の何とも言えないような臭いが漂っていた。

 同様にお尻も圧倒的存在感を示しており、お尻の谷間にある菊の門は競技用ドームをすっぽりと収められる程の規模を誇っていた。


「今日はケーキ以外にも沢山食べたから、いっぱい出ちゃうかも。」


 そんな意味深な声が空から聞こえたかと思った矢先、巨大少女の


「んっ………ッ!」


 と力む声が聞こえた。


 人々は一瞬で悟った。

 この体勢で気張ることと言ったらひとつしかないからだ。


「ふんっ……ん~………ッ!」


 ムリ……ムリ………


 人々の予想通り、お尻の穴の皺が伸縮を始め、穴の中から巨大なうんこが顔を出した。

 街の人々はパニックに陥り、一斉にその場から逃げ出し始めた。

 しかし彼女の大便は約1000倍の大きさである。少なくとも街の中心付近にいる人々の逃走は全くの無意味であった。


「んっ……今度は小百合が体内で作った特大サイズのチョコレートケーキを……んんっ……ッ!プレゼントしたげるね…ッ!」


 ムリムリ……ムリ………ッ!


 心底幸せそうな表情で排便を続ける小百合。溜めに溜めたうんこを放り出す時の快感に酔いしれて口元からよだれが垂れている。


 そんな幸せそうな小百合とは裏腹に、お尻の下のこびとたちは阿鼻叫喚に陥っていた。

 吐き気を催す酷い悪臭と腸内で存分に温められた熱気を放ちながら、巨大な女の子の巨大なうんこが空から迫って来ているのだ。

 街の数区画を容易に包み込むことが出来る小百合のうんこはそのまま街の中心部に落下し、お尻の穴が急速に締まると同時に分離されて街の外側に向けてボトリと倒れ込んだ。


 ズズンと大きな音を立てて倒れた一切れの大便によって多くのこびとたちが下敷きにされた。

 ほとんどの人々は大便の重量に耐えられる筈もなく圧死していったが、中には潰れずに生き埋めにされた者たちもいた。

 しかし、即死していた方がまだましだったことだろう。巨大な糞便に埋もれて抜け出すことも出来ずにもがき苦しんで死んでいくという、人間の尊厳をズタズタに引き裂かれるような死に方はあまりにも酷だったのだ。

 尊厳死とは最も対極にある死に様であることは間違いない。


 しかしそれは小百合の知ったことではなかった。

 彼女は何の遠慮もなく第二、第三の排泄を続けていた。

 終いにはリラックスした所為か、巨大な陰唇を開いておしっこをし始めた。


「んあ……あぁ、あああぁ~………♪」


 ジョボボボボと音を立てて股間前方に向けて零れ落ちる小百合のおしっこは、そこにあった街の表面を呑み込んでいった。

 当然そこにいたこびとたちは津波のような黄金水の激流に呑み込まれ、人肌程の温度と強烈なアンモニア臭、そして猛烈な屈辱感を感じながら溺死していった。


 彼らの痛烈な想いは天に届くことなく、ひとりの少女の生理現象によって街の人々は全滅してしまった。

 後には糞尿にまみれた街の残骸だけが残っていた。


「ん~すっきりした。………あはっ、わたしからのクリスマスプレゼント、喜んでくれたかな?」


 そう言ってティッシュで陰部を綺麗に拭く小百合。

 使用したティッシュは汚物と化した街の上に落とされ、小百合の縮小能力によって街や排泄物ごと1センチまで縮められた。

 そして転送能力でゴミ箱の中へと転送されていった。


 神秘的な聖夜の街から30分後の出来事であった。

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小百合ちゃんは縮小転移するよ! 潰れたトマト @ma-tyokusen

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