【第2章】転校生

第54錠 クラスメイト


「誠司! どういうことだよ!!」


 テスト期間初日──誠司が学校に行くと、待っていたのは、クラスメイトからの怒号だった。


「お前、言ってたよな!ができるって!」


「それなのに、あれのどこが妹なんだよ!? 俺たちの美人でエロいイロハちゃんは、一体、どこにいったんだあああぁぁ!?」


 そして、その話題の中心は、今日、転校してきた彩葉いろはのことだった。


 誠司の義妹ではなく、誠司の義兄として、ここ城ヶ崎じょうがさき高校に転校してきた──黒崎 彩葉。


 容姿端麗でミステリアス。明らかに、ここらで馬鹿やってる男子たちとは違う雰囲気を醸し出す彩葉に、学校中が、色めきだっていた。


 女子なんて、朝からキャーキャー言ってるし。しかも、それが誠司の義兄弟きょうだいだと分かり、話題を一気にかっさらった。


 そして、そのおかげか、誠司の嘘は、あっさりバレ、友人たちが阿鼻叫喚していた。


「誠司! お前、嘘つくなんてヒデーよ!」


「俺たちの心を弄びやがって!! これは重罪だぞ、重罪!!」


「あーあー!!悪かったってば! でも、俺だって騙すつもりはなかったんだよ! 彩葉って名前だから、てっきり女の子だって思ってて。それに、みんなして盛り上がるから、違ったなんて言い出せなくて……っ」


 もはや、地獄絵図のようだった。


 なにより、彩葉が転校してくると分かっていたら、もっと早めに誤解を解いていた!


 それなのに、なんで直前になって!?


(しかも、よりにもよって、セイラと同じクラスだし)


 そして、数々の不運が重なり、誠司は頭を抱えた。


 一番の問題は、彩葉のクラスだ。


 そう、彩葉が転入したクラスは、2年A組。


 誠司の彼女である──ひびき セイラと同じクラスだった。










 第54錠 クラスメイト









 ◇◇◇



「黒崎 彩葉です。よろしくお願いします」


 ホームルームが始まった2年A組では、教卓の横に立った彩葉が、静かに挨拶をしていた。


 今日から、始まる新しい生活。


 前に通っていた星ケ峯高校から、こちらの城ヶ崎高校に編入してきたが、規模も雰囲気も、前とさほど変わらない学校だった。


 となれば、こちらの高校でも、同じように振る舞うだけだろう。


 もとより、友達をつくるつもりは一切ないのだから──


「ねぇ、超イケメンなんだけど」


「同じクラスなんて、うちらついてない?」


 眉目秀麗だからか、物静かな彩葉の雰囲気には、誰もが見惚れていた。


 まぁ、顔はいい方だし、前の学校でも、それなりにモテた。だから、この反応は予想通り。


 すると、ざわめく生徒たちを見て、今度はクラス担任である、羽根田はねだ 先生が気だるそうに口を開く。


「おぃ、おまえら、イケメンが来たからって騒ぐなよー。これから期末考査があるんだからなぁ……それじゃぁ、黒崎。席は、あそこ使って。あと、分からないことは、近くの生徒にでも聞いてくれ」


「はい」


 羽根田が、そう言って席を指示すれば、窓際の一番後ろの席が、一つ空白になっていた。


 だが、その席に目を向けた瞬間、彩葉は、ある女子生徒に目が向いた。


 彩葉のひとつ前の席には、長い髪をした清楚な雰囲気の女の子がいた。


 そして、それは、先日、再会したばかりの──響 セイラ。


(……あの子、同じクラスなんだ)


 一瞬、誠司の複雑そうな顔が浮かんだ。

 

 アイツは今、この状況を、どう思っているのだろう?


 まぁ、どう思っているのかなんて、簡単に想像がつく。アイツは、誰も巻き込みたくないと思っているのだから……


 その後、彩葉は教室の中を進むと、セイラの横を通り過ぎ、自分の席に着いた。


 前を見れば、セイラは、挨拶ひとつすることなく、前を向いたままだった。


 関わりたくないのだろう。

 そんな意思を感じて、彩葉は苦笑する。


 すると、その瞬間、隣の席の女子が話しかけてきた。


「黒崎くん、宜しくね!」

「……!」


 席に着いた瞬間、話しかけてきたのは、ボブヘアーの活発そうな女子だった。


 彩葉は、彼女を向かって妖艶に微笑むと


「あぁ、宜しく」


 そう言って、言葉を返す。


 そして、そんな背後のやり取りを聞きながら


(どうしよう……っ)


 セイラは、弱々しくスカートを握りしめていた。





*あとがき*

https://kakuyomu.jp/works/16816927861981951061/episodes/16817330659165592576

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る