第55錠 ラブレター
「セイラ~」
一日目のテストが終わり、普段より早めの下校時刻を迎えた頃、誠司は、2年A組に訪れていた。
廊下から、教室の奥にいるセイラに声をかければらセイラは、帰り支度をすませ、パタパタと誠司の元に寄ってきた。
「誠司。テストは、どうだった?」
「おぉ、セイラのおかげで、なんとかなったぞ! 多分な」
「多分?」
「あぁ、多分!」
曖昧な返答に、セイラがくすくすと笑い出す。
だが、今日は、朝から、彩葉の件でごたついていたせいか、あまり集中できなかった。
それでも、セイラと一緒にテスト勉強していた単元がピッタリ出題されたので、赤点ということはないだろう。
そして、誠司は、ほっとしつつも、教室の奥に目を向ける。
窓際の一番後ろの席だ。
そして、そこには、帰り支度をしている彩葉がいた。
しかも……
(あいつ、セイラの後ろになったのか?)
席、近ーよ!?
ただでさえ、同じクラスだってのに!?
(アイツ、セイラのこと見て『白』として、目つけたりしないよな?)
なにより、彩葉たちの組織は、犯罪を犯した『黒』の性格を変えるために『白の遺伝子』を持つ人間を探してるらしい。
そのために、少量の血を採取し、DNAを貰うというが、やっぱり勝手に採るのは、どうなんだ?
いや、知らぬが仏という言葉もあるし、知らないなら、いいのか?
いやいや、いくら知らぬが仏と言っても、セイラの血は、一滴ですらやりたくないぞ!!
「セイラ、今日は一緒に帰れるか?」
その後、誠司が問いかければ、セイラは、申し訳なさそうに視線を逸らし
「あ、ごめん……今日は、少し用事があって」
「そっかー」
「でも、明日なら帰れるよ」
「ホントか! じゃぁ、明日は一緒に帰ろう!」
「うん、わかった。じゃぁ、私は先に行くね」
すると、セイラは、ヒラヒラと手を振り、誠司の元から離れ、誠司は可愛い彼女を見送ったあと、再び、教室の中に目を向ける。
窓際にいる彩葉は、一人だけ独特なオーラを放っていた。
どこかツンとしていて、人を寄せ付けない孤高なオーラ。オマケに顔が良すぎて、近寄り難い。
いくらイケメンでも、あれじゃ、友達なんてできないだろう。
(……仕方ない。セイラとは帰れなくなったし、一応、誘ってやるか)
一応、兄弟だ。
転校初日くらい、面倒をみてやらなくては!
「彩葉~! 一緒に帰るかー?」
そう言って、廊下側から、誠司は声をかけた。
すると、支度をすませ、バッグを肩にかけた彩葉が、スっと誠司に視線を向ける。
(一緒に? なんで、わざわざ?)
あの仔犬みたいに、うるさいお節介野郎は、学校でも、こうなのか?
今日、一日過ごした感じだと、誠司は、そこそこ目立っているタイプらしく、ムードメーカー的な立ち位置だった。
友達も多いようだし、なにより、彼女もいる。
しかも、あんなに清楚で純粋そうな彼女が……
「あまり、まとわりつくな」
すると、誠司の側まで歩み寄った彩葉は、気だるそうに、そう吐き捨てた。すると、誠司は
「お前……っ。俺たち兄弟だぞ! 帰る家、同じだろーが!」
「だからって、一緒に帰る必要はないだろ」
「っ~~~! 相変わらず、嫌な奴!」
こちらが、気を利かせやってるというのに、なんだ、この態度は!!
それとも、あれか!?
また仕事にでも行く気か?!
あの『色』を売る仕事!!
「なんか、用事でもあんの?」
「いや、今日はないよ」
「だったら、一緒に帰ればいいじゃん!」
「はぁ……」
しつこい誠司に、彩葉は、深くため息をつく。
転校したての兄弟が、孤立しないように声をかけているのだろうが、孤立を望んでる彩葉にとっては、迷惑な話でしかなかった。
その後、呆れつつ、彩葉が教室から出ると、向かう先が同じだからか、誠司も彩葉の後に続く。
廊下を進みながら、二人一緒に、生徒玄関に向かうなか、誠司は、のほほんと語り掛ける。
「テスト、どうだった?」
「問題なく。お前は?」
「赤点はない、はず!」
「頭も悪いのか? 救いようがないな」
「お前は、性格悪いよな」
「そんなこと言う方が性格悪いと思うけど」
「え!? 俺、性格わるい!?」
若干ショックを受ける誠司に、彩葉は毒気を抜かれつつ、靴箱の前に到着する。
──ガチャ
「……?」
だが、靴箱を開けた瞬間、彩葉は眉をひそめた。
中には、小さめの便せんが、折りたたまれた状態で入っていた。
(……なんだ? 手紙?)
不審に思いながら、それを取り出せば、彩葉は、すぐさま手紙の文面を確認する。
「なんだ、それ?」
「!」
だが、その瞬間、誠司が覗きこんできて、彩葉は、サッと手紙を、誠司の視界から外した。
「勝手に見るなよ」
「あ、ごめん。なんだろうと思って」
「………」
まぁ、純粋に気になったのだろう。
すると、彩葉は
「ラブレターだよ」
「は?」
そして、その言葉に、誠司は目を丸くする。
ラ、ラブレター?!
「いやいや、お前、今日、転校してきたばっかだろ?!」
「まぁ、そうだけど。でも、俺と二人っきりで会いたい女子がいるみたいだから、お前は、一人で帰れ」
「……っ」
くすりと不敵に微笑んだ彩葉は、あまりにも憎たらしい顔をしていて、誠司の心中には、モヤっしたものがたまっていく。
そして、彩葉は、シューズを履き替えることなく、どこかへ行ってしまい、一人残された誠司は、ググッと眉根を寄せながら
「あの野郎……もう、誘ってやらねーからな」
と、小さく小さく、愚痴をこぼしたのだった。
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