第4話 清く、正しく。潔く。

 全員の階下への退避を確認した殿しんがり武美たけみは、管制室へと滑り降りると立ち上がり、黒木砲術長に向けて頷いた。

 

 ディスプレイには、電磁加速砲レールガンの砲身の転回が終わり、仰角も最終調整された旨が表示されている。砲身に瞬間的な超高電圧を与える階下の蓄電フライホイールの回転速度もすでに十分である。

 標的とするアンノウンたちも着弾可能なポイントに達している。

 

 黒木砲術長はマイクに向け、

「清く、正しく。」

と宣した。


 専科での射出に向けての『構え』の合図である。電磁加速砲レールガンの制御装置が、射出タイミングに合わせ仰角等を自動調整する高度な準備演算モードとなる。いわゆるロックオンの状態である。


 5秒を経て、哨戒隊員からの待ったはかからない。

 上着を軽く羽織り、後ろで悠然と立つミーシャ指導官からの否もない。

 

 黒木砲術長はマイクに向けて宣する。

いさぎよく」

 すなわち、『撃て』の合図。

 

 ジュダッ。ジュダッ。ジュダッ。ジュダッ。

 

 電磁加速砲レールガンの控えめな射出音と超音速の砲弾が作り出す大なる衝撃波音が重なって、遮音壁越しに管制室内に響く。


 今回の射出初速はマッハ6強に設定されていた。結果は、索敵支援のドローンからすぐにもたらされた。

 オールグリーン。地上から鎌首をもたげる形で島に接近してきていた推定質量20トン以上のアンノウンは、全て活動を止めていた。

 

 迎撃目標クリアの表示に、電磁加速砲レールガン射出後直ちに、哨戒隊員と連携して、次弾射出までの修正演算の要否を探るリサーチに動き出していた砲術隊員たちは、安堵し、小さく歓声を上げた。

 

 ☆

 

 あやかしの類とはいえ、その動きを絶つために超音速の砲弾を任に学齢期を終えたばかりの専科生たちにあたらせるとの決断をしたのは、ミカ校長代理の嘉納一佐である。彼は、彼女たちの心胆を少しは安らかならしめようと、『発射準備、撃て』する際のミカ校なりの号令を決めてはいかがかと、全校生に提案した。約800名のミカ校女子は、全校集会での討論会と最終投票を行い、電磁加速砲レールガンの発射準備と撃ての号令を、清く・正しく・いさぎよくと定めた。

 諸行無常の世に潔くあれ、かと、校長代理はその号令を承認した。

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珪素族系異能ツチミカドが挑みし、陸上自衛隊施設科の下剋上史  十夜永ソフィア零 @e-a-st

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