第2話 世界中が私の敵 ~花山院楓~

 私は花山院かさんのいんかえで。ごく普通ふつうの中学生。

 自己主張じこしゅちょうが苦手で言われたことは全て聞く。感情はあるから、嫌だと思うことはある。それでもさからえない。私はそれを欠点けってんだと捉えているけれど、父は否定ひていし長所だと言ってくれた。


 世界中でウイルスが猛威もういを振るい始めて早二年。

 私が感染かんせんすると、父に多大ただい迷惑めいわくを掛けるから絶対ぜったいに感染してはいけないと言いつけられていたため感染回避かんせんかいひ徹底てっていしていた。

 家族全員が同じだと思っていた。しかしウイルスは父を殺し、母を殺した。祖父母までも殺した。姉はかろうじて生命を維持いじしているけれど昏睡状態こんすいじょうたい——私の日常は、またたく間に崩壊ほうかいした。

 どれだけ感染対策を徹底てっていしている者でも、ウイルスを排出はいしゅつする者に囲まれては感染成立を回避することはできない。


 私は父の仕事をまかされていた。期待を裏切らないよう言いつけられていたから、必要な知識ちしき技術ぎじゅつ懸命けんめい習得しゅうとくした。表に出なくても良い範囲での実務じつむを任されていたから、裏方である父の側近との面識めんしきもある。


 新聞の情報によると、父の側近そっきんが感染予防のために行動自粛をめいじられているにも関わらず、接待せったいともなう飲食店での会食かいしょくを繰り返していた。

 その結果、父は感染かんせんし家族へと感染が連鎖したとされていた。


 父の実質的な第一秘書は私。記事に記載されている秘書を名乗る者が存在しないことを知っている。父の側近と名乗る者は全員面識がない。報道内容に違和感いわかんがあった。だけれど、マスコミは面白おかしく偏向させるものだから仕方ないことだと自分に納得させた。


 父と家族を壊した者たちは年齢、性別、その他一切の情報開示を拒否きょひ。法律により人権を守られた。


 数日後、父は接待を伴う飲食店関係の感染により死亡したと報じられた。祖父母と母、そして姉は、接待を伴う飲食店関係者とされた。役人と政治家は共に、父が感染の発端であると主張した。


 そんな事実は無い。父は外食をしていない。スケジュール管理は私がしているし、毎日一緒に食事をしているから有り得ない。

 だけれど死亡した者は、それが誤りであると主張や反論をしない。否定する者がいないから、事実として伝播し続ける。一方的に死体蹴りされ続ける——


 何が国民のための政治だ。法律は、力がある者が保身や利権のために都合良く曲解し利用出来るようになっている。弱者が守られるようには出来ていない。


 重症の姉、二十代女性は風俗嬢。

 私は緊急事態宣言下でも風俗店を利用する父の娘。私自身はパパ活常習者であるという情報で、各種メディアが埋め尽くされている。


 そんな事実も無い。


 家族を失った。その上、誰にでも股を開く女として顔写真が名前とセットで拡散されている。私はまだ十五歳。仕事をできる年齢に至ってない。生きていくためには、デマ情報の通り身体を売るしかないのかもしれないとも本気で考えた。誰かが指示してくれれば、そうするだろう。


 しかし、私に指示してくれる人はもう存在しない。

 この先、どう生きていけばいいのだろう——

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

人権を廃止します あめ玉 @softbunk

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ