最弱能力者は空を飛ぶ〜最弱スキルを持つ無能少年はダンジョンの全てを破壊する〜

木崎ユウメ

プロローグ 全てを破壊する男

『ダンジョン 第三十層』


 暗闇に、小さな炎が揺らいでいる。それは男が持つたいまつの炎だった。一切の光が遮断された周囲に、人間の目では何も見ることができない。


「や……めて」


 女の声が、静寂の中かすかに響く。

 暗闇の中、女は大柄の男に身体を押さえつけられている。


「おいおい、自分はモンスターに勝てる強者だからって油断したな。そういう奴らほど人間を警戒しない馬鹿ばっかりだ。この場所を造ったのが人間だって忘れてやがる!」


 男は笑う。弱い者を虐げる快感と、強い者に支配される大きな不安から逃れる為に。

 同時に、女の胸に手を伸ばし強引に揉みしだく。


「……この! レイプ魔がッ!」

「ひひひっ、黙ってろクソ女!」





 どん。


 静寂の中、響く鈍い音。それは男の頭上から発生していた。


「……は?」


 どがん。


 再び鈍い音が響く。同時に、男の頭は頭頂部が大きくへこみ、顔を歪ませその場に倒れ込んだ。


 倒れた男が持っていたたいまつを、一人の人間が拾い上げた。

 ひどく険しい顔をした少年だった。手には大きな棍棒を持っている。これで男の頭を潰したのだろう。


 女は、少年に駆け寄った。


「助けてくれてありがとう。こんな場所にも、君のように善良な人間がいたなん……」


 どん。


「……な」


 どがん。


「痛い! 辞めて!」


 どがん。どがん。


「……」


 少年は何度か女の頭に棍棒を振り下ろし、頭蓋骨が割れた音を確認すると、その場を離れていった。

 


 

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