EP2.3
「ふむ」
イヴはタカコ=ヒメサキの死の瞬間を何回も繰り返し再生し、重要そうな情報を拾っていく。
①日付は、アフェリオス号が地球に帰還する二か月前のもの。時刻は午後八時十六分。
②ナギとタカコは怪物に追われており、ビリヤード場でタカコは力尽きた。
「化け物に殺されたんですか」
メアがイヴの顔を覗き込んだ。
「ああ」
「なるほど」
神妙な顔をしてメアは呟いた。
「どうしたの?」
ぼそぼそと言葉を漏らす。
「やっぱり、宇宙人ですか?」
「それは、わからない」
「やっぱり、宇宙人ですか」
イヴはぽりぽりと頭を掻く。
「……宇宙人、か」
「イヴさんは、宇宙人否定派ですか?」
「メアは?」
メアはぐっとこぶしを握った。
「いると思います。宇宙、広いし」
「……フェルマンのパラドックス、って知ってる?」
「なんですか? それ」
「昔の科学者が、なんで僕たちだけが知的生命体なんだ? って思ったんだ。言い換えると、どうして宇宙人が見つからないんだろう? ってこと」
メアはむむむ、と考えている。何とか宇宙人が存在する理由を見つけたいらしい。
「それは……それは、遠くにいるからです」
何とかひねり出したその答えに対し、イヴは頷いた。
「そう。宇宙が想像を絶するほど広大であることを考慮すれば、その可能性は十分にありうる。見つからないのは、僕らに観測できないほど遠くにいるから、っていうのはね」
「観測できないってことは、もしいたとしても、宇宙人と交信できないってことですか」
メアの眉毛はハの字になっていて悲しそうだ。
「そうだね……いたとしても、光の速さでも何十万年もかかるだろうから、コンタクトを取るのは不可能、というのが科学の見解」
「ぴえん」
「ぴえん、って何?」
「なんか、二百年前に流行ってた言葉らしいです。悲しい、っていう。こんな感じ」
メアは、まあるい瞳をうるうるとさせながら口をきゅっと結んで眉をハの字にする。
「なんていうか、あざといね」
その表情のままイヴをじっと見つめる。
「可愛いですか?」
「いや、別に……」
「可愛いですか?」
「いや、別に……」
「ぴえん」
「……さて。ほかの考えとしては、僕たちが宇宙で初めての生命体だ、という考え方。でもこれは長い宇宙の歴史から考えると、ちょっと楽観的すぎる」
「そう……なんですか?」
「うん、というよりもう一つの説の方が、信憑性が高い、って感じだけど」
「それは?」
「知的生命体は誕生したとしても必ず絶滅してしまう、という説」
メアはぶるっと震えた。
「それは……ちょっと怖い説ですね」
「まあ、どれも憶測にすぎないけどね」
なるほど、と言ってからメアは考え込む。
「でも、もし怪物が宇宙人なら、天才ニアハの病死が簡単に説明できそうじゃないですか?」
「と言うと?」
ぱちぱちと瞬きをしてメアは答える。
「地球の外の環境を生き延びてきた生物なら、未知のウイルスや病原菌を持っていてもおかしくないと思うんです。で、それが船内で蔓延して、パンデミックを起こした。どうです?」
メアは自信満々な様子だ。
イヴは少し考え込んだ。
「なるほど。一理あるね、めずらしく」
「めずらしく? ひどいです」
「……あの化け物が有機生命体だったなら、確かに、そうかもしれない」
だが仮にあの怪物が地球外生命体だとしても、疑問はいくつも残る。
まず侵入経路について。ほぼ光速で動く宇宙船に飛びつき、中に潜入することなど本当に可能だろうか? ……もちろん、僕らと全く違う物理法則で彼らが存在していたり、ほかの文明がはるかに進んだテクノロジーを持っていたと考えたら、それほどおかしな話でもないかもしれないけれど……。だけど少なくとも、地球の周囲一光年の範囲に知的生命体が観測されたことはない。
「……」
あと、もう一つの違和感があるとするならば、それは……。
【なんで、こんな、ことを】
イヴの頭の中には、難民記者タカコが最後に残した心の叫びが引っかかっていた。
帰還した古代の宇宙船、生還者一名 百田なつめ @natsume100ta
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