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 ……ひとしきり笑い終えたジャンヌは、動かなくなった妹を足で踏みつけた。血塗られた黄色い花が、彼女の足元で重そうに揺れる。

「愚かなカトリーヌ。あなたのせいで、私は魔女になってしまったのよ」

 言葉とは裏腹に、彼女の顔は晴れ晴れとしている。魔女にしか至ることのできない、神秘の境地を確かめるように、にやりと口元を緩ませて。

「でも今となっては、とっても感謝しているわ。だってあなたのおかげで、私は魔女になれたんだから!」

 ジャンヌの言葉は、どちらも本当のことだった。一方では魔女になってしまったことを悲しみ、また一方では魔女になれたことに喜びを感じていた。

「さて、次はどうしましょう? 誰を嘲笑って、誰を殺せばいいかしら?」

 魔女は何でもできる。自らの欲望の成すままに、自らの復讐のあるままに。

「ああ、なんて素晴らしいの! 全て私の思うがまま! 誰を生かして、そして誰を殺すかも、全て私が決められるのよ!」

 ドレスの裾をなびかせながら、楽しそうに花畑を舞う彼女。田舎娘だったかつての面影は、最早どこにもない。

「あははっ、そうだわ! 次はあの愚かな王を殺してやりましょう! 私を裏切った、あの哀れな王を!」

 魔女は何でも知っている。例えカトリーヌに殺されなかったとしても、いずれは業火に焼かれて死んでしまうことも。魔女は何でもお見通しなのだ。

「さぁ行きましょう、七十二の悪魔たち! 私を認めなかった全ての人間たちに、死の救済を与えましょう!」

 魔女の呼び掛けとともに、魔法の蝶々が一斉に舞い上がる。それはたった一瞬のことで……、瞬き程度の時間が経つ頃には、そこには誰もいなくなっていた。

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魔女・ジャンヌ 中田もな @Nakata-Mona

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