竜殺しの英雄と元姫君
俺の願いは、「マルシェ王国の復興を手伝ってほしい」だった。最初は死霊を倒した、という俺の話を疑っていた皇帝だが、実際に確認してきた兵の話を聴いてからは話が早かった。
今はマルシェの元司教であるヨーゼフさんの主導のもと、ガルド王国との戦争で亡くなり、死霊となってしまったものたちの墓地を作っている。墓石には、元国民たちによってわかるかぎりの死者の名が刻まれた。そこにはもちろんアルバート王子や、元宮廷魔道士、ルーカスのものもある。
噂を各地で噂を聞きつけてきた大勢の元マルシェ国民が墓参りに足を運び、大多数がそのままマルシェに残り、復興を手伝ってくれている。
元ガルド王国第三王女、メルがその光景を見て声を出して泣いていたのが印象に残っている。
この様子をアルバート王子もどこかから見ているといいなと、俺は空を見上げてそんなことを思った。
ガルド王国との戦争の話はどうなったかといえば、竜の部位を素材としたドラゴンウェポンは強力無比で、「これならガルド王国が攻め込んできてもなんなく追い返せると思うわ」と、メルはほっとしていた。
俺も本性を隠していた皇帝が「フハハハハハ、この力で他国に侵略だ!」とか言い出さなかったことに、ひそかに胸をなでおろした。
そうそう。ドラゴンウェポンといえば、俺にゴーレムの石盾とミスリル製のクワを作ってくれた鍛冶師のおっさんも今テュルス帝国にいる。
家族を迎えに一度ガルド王国に帰った際、皇帝がドラゴンウェポンを作成できるような優秀な鍛冶師の手が足りていない、と嘆いていたのを思い出して誘ってみたら、あっさりついてきた。なんでもガルド王国の上のやつらにはうんざりしていたらしいことに加え、彼が慕っていた元お姫様のメルが帝国にいる、ということも後押しになったようだ。
皇帝には「とんでもない鍛冶師をガルド王国から引き抜いてくれた!」と感謝された。
今は俺がもらった領地で鍛冶屋を開いて、包丁などの調理器具や農工具を作ってそのメンテナンスを行っている。ドラゴンウェポンを作ったあとは、武具は弟子たちに任せたとのことらしい。
「あなた。ちょっとは仕事しなさいよ。領地を見て回るだけでもいいから!」
メルがノックもせず、俺の部屋にズカズカと踏み込んできた。
そういえば、俺はメルと結婚した。
メルが「あんな恥ずかしい姿を殿方に見られたとあっては、もうほかにはお嫁にいけないから責任を取って」とわけのわからないことを言い出したのがきっかけだ。最初は俺も何言ってるんだこいつと鼻で笑っていたのだが、まさか俺の家族を全員味方につけてくるとは……。
結婚してから二年、メルはどんどん女として磨きがかかった。それにテキパキ俺の代わりに領主としての仕事もこなしてくれるし、料理もうまい。元王女様だなんて思えないくらい話も合うし、俺の家族との仲も良好だ。なんなら俺より仲が良さそうに見える。
今ではこんな嫁さんをもらって幸せものだと俺は思っている。
噂だと、俺の嫁はガルド王国だとドラゴンによって魂を汚された裏切りの姫君、なんて言われているらしい。
魂が汚れているというのは合ってると思う。この元姫君はなかなかに性格が悪かった。口を開けばやれ仕事をしろだの、わたしにばかり仕事を押し付けて恥ずかしくないのかなどとうるさいのだ。
今日もガミガミ言われたので、言われた通り領地をテキトーに回ってくることにした。異常がないかの巡回と銘打っての、領民との世間話である。そういえば、父親が風邪で寝込んでいる農家があった。そこの農作業の手伝いをしてから、帰りに釣りでもしてこよう。
そう決めて、俺は青空の下、あくびと共にぐぐっと伸びをした。
※ ※ ※
ガルド王国において、メル姫は確かに裏切りの姫として語り継がれる。しかし、帝国に残る彼女の物語はそれとはまったく異なっている。
帝国において彼女の物語は、姫のためにたった一人でドラゴンを倒した一人の平民と、彼と共になるために王族としての称号を捨てた王女の駆け落ち恋愛物語として残っている。
その物語は特に城下の女性達の間で人気を博し、本や劇へと形を変え、後世まで語り継がれていくこととなる。
ドラゴン倒してお姫様と結婚する話 ジェロニモ @abclolita
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます