第九話 目覚め
目を開くと、白い天井が映った。
「此処は・・・?」
ぼやける視界で辺りを見渡す。
真っ白な部屋だった。
扉すらも教会の大理石のように真白で、ベットが一定間隔で並んでいた。
「!!ゴブリンロードは!?」
視界がはっきりし出すと共に浮かび上がるはロードとの死闘。
鍔迫り合いに巨岩の如し拳撃、そして——
「そう、か。僕は勝ったのか・・・」
死の間際にいたからだろうか。実感が湧かない。
「ははは」
体がこそばゆい。震えながらも意思のない乾いた笑い声が静かに木霊し溶け込んでゆく。
僕はしばし、目を焦点もなく宙に彷徨わせた。
「起きていたか」
戸を開け、騎士がヅカヅカと音を立てながら入ってくる。
公務なのか全身に鎧を纏っており、重圧感のある低い声が静寂な空間に良く響く。
「お前、覚えているか?村で眠る前の事を——」
ああ。嗚呼。覚えているとも。僕はロードとの死闘を生き延び、そのまま気を失った。
僕は『星』へと近づいた。僕は階段を一つ昇った。
騎士は村の状況などを滔々と語っていたが、僕の心には一切入ってきていなかった。
勿論村の人達には恩義があるとも。どれだけ平和ボケしていようが、どれだけ長が腐って居ようが、両親や自分がその一員であったのだから少なからず恩義はある。感傷もある。
しかしこの時の僕の内は、別のモノが巣食っていた。
心の底から、先程まで欠如していた実感がくつくつと湧き上がってきた。
記憶を探り終わった後、燃え尽き症候群にでもなったのかと思った。
炎が遺ってないと思った。
——でも違った。
本当に。本当に二年前までただの村人だった自分が、ただの子供に過ぎなかった僕が、倒したって自信が持てなかっただけなんだ。
僕の目標は、こんなところじゃない。
『星』だ。地上からどんなに手を伸ばしたって届かない、あの『星』だ。
『星』に憧れて、恋焦がれて、『剣士』に道を示され、開いて——とても長く、険しい道のりと知った。
ゴブリンロードとギリギリの死闘を演じた。
しかしあんなのよりも強い魔物なんて沢山いる。そしてそんな化け物どもを瞬殺するような英雄(規格外)とている。
でも今更立ち止まる事は、出来ない。
僕はもうスタートを切った。
無数のゴブリンを斬り捨て、その王をも踏み台とした。
僕の歩いた跡にはもう、沢山の屍が転がっている。
今更逃げる事は許されない。
誰かが『英雄』というのは孤独だと言った。
誰かが『英雄』というのは殺戮者だと言った。
その通りだろう。
『英雄』は取捨選択が出来るから『英雄』なのだ。
『英雄』はある一面で人を超越しているからこそ『英雄』なのだ。
そんな『規格外』達を越えなくちゃいけない。
『星』というのは手を伸ばしても届かない、そんな存在だ。
つまり『星』になる、とは『英雄』でも届かない存在でないといけない。
・・・無謀だ。しかし今更であり、始めから分かり切ってた事。何者よりも高い到着点。何年かかるか分かったもんじゃない。
故に僕は「どうせなら全て踏破してやろう」と声に出して笑う。
その時その時で、言葉は解釈が変わる。
その悉くをなって見せようと。思った事全て実現して見せようと。
ただ宣う。
流暢に話していた騎士が、ギョッと目を見開き僕を見る。その眼に宿すは理解し難いモノを見た異質の色。
だが当人たる僕はこれもまた今更と無視して天井へと手を翳し、握り拳を作る。
これは静かな宣誓。確かな決意。
「『星(憧れ)』を憧れ(熱)のまま終わらせない。命尽きるその時まで進み続ける」
『憧れ』に手を伸ばし、必死で足掻き、命は燃ゆる。
それは試練という薪が大きければ大きいほど、多ければ多いほど激しく、美しく燃え上がるのだろう。
(当面の目的は決まった・・・かな)
僕は決意を新たにし、ひとまずの方針を固めるのだった。
———————————————————
あとがき
初めましての方は初めまして。そうじゃない方はお久しぶりです。琴葉刹那です。
さてまず一つ目の有言実行完了。あと3つ。分からない人は私の近況ノートを是非是非。
大会なり塾なりで夜十時からくらいしか時間取れないので、今必死に書いてる所存。
それではまた次回お会いしましょう。ばいばーい。
星に憧れた少年 琴葉 刹那 @kotonoha_setuna
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