毛細血管までがクラゲの脚……。

作者様の感受性と語感センスの良さに終始驚かされた。遠い未来の世界に暮らす人間は生身と機械が混在した肉体を持っている、という発想自体は珍しくないが、この作者様の手にかかれば「奇妙な生命体らしき物」に変わり、何とも「不定形なぎこちない存在」として映ってくるのだ。

細胞の一つひとつまで人工物が行き渡り、毛細血管までが『クラゲ』の触手になったかのような感覚すら抱く。この『クラゲ』という表現が与える効果は抜群である。それまで、ちょっと想像したことがない人造人間像が思い浮かぶのだ。少なくとも、私には新鮮だったーー鼻を打つような腐敗の臭いを感じ取るまでに。

『倫理は移り変わるもの』、と作者様は作中で記しているが、この世界は明らかに末法(あるいは終末)であり、その中において「生きる」ことは、むしろ「死ぬ(死に続ける)」ことに近い。輪廻から抜け出せない苦悩が行き着く先は、必然的に機能を停止させることに繋がるだろう。恐るべきことに、この世界においては、とうの昔に、生と死の意義が逆転しているのである。この世界の中にあっては倫理は枷でしかないのだ。

作者様の豊かな感受性から生まれる世界観、死生観、また語的センスの良さに酔いしれてしまうような作品だった。哲学的な意味合いを読み取ることもでき、非常に考えさせられる逸品。そんな印象を抱いた。