第3話 頭の中までガラパゴス
キッチンで、ケトルの中で沸くお湯をぼーっと見ていた。
疲れすぎて放心状態だ。何も考えたくない。
軽い音を立ててお湯が沸騰して、さて今日はアールグレイにしようかと立ち上がったところで、慌ただしく階段を降りる音が聞こえた。
「おーい、あんま飛ばすと危ないぞ」
ドタドタドタバタ!!!
無反応かよ。シケた顔でタイマーを弄っていると、未来が走ってきた。
「ねえ!聞いた!?」
「え、いや」
「これ見なよ!」
ずいっと押しつけられたスマホの画面を覗くと、メッセージが来ていた。新着の。
それを未来が読み上げる。
「豊君、未来。パパです。ママがハワイで骨折したので、帰りが遅れます。よろしく〜」
「うわ、母さん、何やってんだよ」
十中八九、サーフィンとかやろうとしたんだろう。どんだけ前衛的な技を決めようとしたんだ、母よ。
「だ、大丈夫かな」
何故か未来の方が心配していた。
根は優しいやつなんだろうな。
「ライブに家族来ないとか恥ずか死ねる。お父さんとお母さん来るって言っちゃったのに」
いや、そうでも無いっぽい。前言撤回。
ライブくらいなら俺だって家族枠でいけるだろ。カウントしてくれ。
「あ〜取り敢えず電話する?」
「当たり前じゃん!何もたもたしてんのさ。早くかけてよね」
「…はい」
可愛くねえ!
「お兄ちゃん、心配だから電話しよ?」くらい言ってくれ!
仕方なく、自分のスマホで母さんに電話をかけた。全然出ねえ。
「ひとりで話さないでBluetooth繋いでよ」
「あ、ごめん」
謝ったが、Bluetoothが何かわからん。
俺がスマホにしたのは去年だから、ガラケーしか理解できない。
どこを押せばいいんだ?
「うそでしょ?Bluetooth知らないの?」
「す、すまん」
「はあー、貸してよ」
諦めて未来に渡すと、スラスラと操作してリビングの音楽プレイヤーに接続した。
迷いない指使いがすげえ、現代人!
感動した。
「スマホ持ってるくせに」
「去年までガラケーだったんだ」
「え!?今ガラケー売ってんの?」
そこからくる?
「使いやすいぞ」
「ジェネレーションギャップとかの次元だから。本当に高校生?」
「お、おお」
おい、今時JK。
ガラパゴス携帯だぞ?不滅なんだからな?
「だから頭ん中までガラパゴスなんだよ」
控えめに、意味がわからん。
頭ん中がガラパゴス諸島なのは悪いのか。あの島は今でも人気なんだからな!
雑談していたが、一向に母さんが電話に出ない。未来は眉を顰めて俺のスマホを引ったくった。
「ラインになんか来てない?」
「ライン……?」
「ジジイかよ」
盛大に悪口を言われた。じいさん馬鹿にすんなよな。古き良き知恵の宝庫だぞ。
黙ったままの俺に、未来がスマホを返した。
「はい。ライン入れといたから」
「ああ、サンキュ」
「あと私と個チャ繋ぐから。QRコード出してよ」
だめだ、無理。助けて未来先生!
未来先生のスパルタスマホ教室のお陰で、俺はなんとかラインを使えるようになった。
連絡先には未来ひとり。
いきなりボッチ感が半端ない。
あと、打ち間違いで名前が「ゆか」になった。女かよ!
その後繋いだ家族のグループラインで、新婚さんたちが予定を長くして沖縄に行ってから帰ってくることが決まったと知った。
国民的アイドルが、超毒舌な義妹化した件 てへぺろ侍 @nama-kemono
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