第2話 天使、否。悪魔

「弁明をどうぞ?」

「申し訳ございません!」


 思いっきり頭を下げた。未来の冷気がゴゴゴゴゴッと音を立てた。

 俺は凍って死にました。さよなら。


「座れ」

「はいッ!」


 床に正座した。

 その前に仁王立ちになった未来が絶対零度の目で俺を見下ろす。

 正直、死ぬほど怖い。


「故意にやったの?」

「ふ、踏んでしまって……」

「なんで?」


 え、なんで?

 落ちていたから、と言ったら速やかにに抹殺されそうだからやめる。俺の非を認めなければ。


「イヤホン、ワイヤレスイヤホンで音楽を聴いてまして」

「は?馬鹿かよ」


 ひいっ、怖えっ!

 目の前で呑気に横たわるドングリを一瞬羨ましく思う。俺も踏まれる方が良かったよ。


「イヤホン出せ」


 素直に出して、渡した。

 それを握った未来は、悪魔みたいな悪い顔でケケッと笑った。


「人質確保」

「え!?」


 嘘だろ!年玉3年分だぞ。悪魔かよ。どす黒いオーラのエフェクトが未来の背後から滲み出した。


「返して欲しかったら私の言うことなんでも聞いて」

「期限は……」

「未定」


 っちくしょう!

 下僕じゃねぇか!無期限とか鬼畜かよ。

 年玉3年分と安いプライドが俺の中で天秤にかかった。


 ………………


 くそッ、プライドなんかクソ食らえ。

 世の中ほとんど金なんだ。勝者は年玉3年分。


「わ、わかった」

「じゃあこれ預かっとく〜。明日からヨロ」

「え、嘘だろ……返却は?」


「nothing!」


 おい、こいつのこと可愛いとか言った日本国民は誰だ?とんだ悪魔じゃねえか。

 この時ばかりはびっくりするほどアイドルっぽく笑った未来がそのまま2階に消えた。


「……終わった」


 瀬川豊、17歳です。

 思いもよらない失態により義妹の下僕になりました。(超毒舌)

 その価値、ドングリと同等。

 全くもって、腹の立つドングリだぜ。


「ねえ、ゆたか!」

 可愛さのカケラもない怒号が聞こえて、重い腰を上げた。

「はいはい」


 やっとの思いで階段を登り、辿り着くと自室のラグに寝そべった未来が雑誌を広げながらにっこりとした。


「ミルクティーお代わり」


 くそヤロー!!!!

 何年分の体力を1日に使わせる気だ!


「ワイヤレスイヤホン」

「作ります!今すぐ!」


 慌ただしく階下に降りた。


「ミルクティー美味しかった……」


 と呟いた未来の声は、ワイヤレスイヤホンが人質の俺には聞こえなかった。

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