翔と私
小波ここな
翔と私
「まったく。この程度の仕事も出来ないのか!」
会社勤め2年目の
田舎育ちの美冬だが、大学進学からの流れで、東京の立派な会社に入れたのだが、仕事が手に合わないのかスランプ地獄のド真ん中だった。
昼食時の社員食堂で悲鳴があがった。
一羽のカラスが食堂に紛れ込んでいたのだ。
あちらこちらに、ガーガー鳴き
美冬は幼い頃に田舎でカラスたちと遊んでいた事があったが、久しぶりに見たカラスに怯えながら席を離れようとした時、カラスから鳴く声ではなく人の声が聴こえた。
「おまえ。カラスの声がわからなくなったのか?」
カラスと美冬が食堂から駆け出して行くタイミングは同じだった。
美冬はカラスから何かを悟り、仕事をほっぽり出して田舎へと急いで戻る為に、列車に飛び乗った。
美冬が下車した駅は懐かしい故郷、
駅にはカラスが数羽群れており、美冬を待ち構える様に翼を広げた。
真夏の太陽が美冬の襟元を緩めた。
カラスたちがガーガー鳴いて飛び去って行く中、一羽のカラスだけが残り、美冬の側に、ピタピタ歩き近づいて来た。
「美冬。じいちゃんが死んだぞ。早く実家に戻れや」
美冬はカラスの声を聞き、実家へ重たいカバンを捨て、走って帰って行った。
美冬が実家に帰ると、まだじいちゃんは健在で、泣きじゃくる孫娘の美冬を抱きしめて話を聞いていた。
美冬の母は東京の仕事をほっぽり出して帰った事に腹をたてていて、美冬の弟と一緒にカバンを持って帰る様に言いつけた。
昼過ぎに父が畑から帰り、ビール片手に我が娘の話を笑い飛ばした。
しかし、夜過ぎにじいちゃんの部屋から苦しむ声がしてその日の晩に
美冬は喪服を着て庭先でぼうっとしていた。
そこに一羽の羽が蒼く見えるカラスが舞い降りて来て美冬に話しかけた。
「じいちゃんは気の毒だったな美冬。次はお前が縄塚の番人だ。気合い入れろ」
美冬はカラスにためらいながら話しかけた。
カラスは家人が離れた時にだけ、美冬に答えた。
「俺は
「翔。縄塚の番人って何のことなの?」
「それはまた別の日に話そう。じいちゃんの葬儀をしっかりとな。では一度去る」
翔は空に舞い上がりガーガー鳴き喚いた。
翔と私 小波ここな @nanoda
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