第5話

数日後。

退院の日となり、病院の玄関で看護師さんたちにお別れを告げていると、先輩が迎えに来てくれた。

「よっ、すっかり元気になったみたいだな」

そういいながら微笑む先輩に、元気です!と言った後にお医者さん、看護師さんにお礼を言って、病院の敷地を出た。


帰り道。先輩が公園に行こうと言い出して、私達は学校の近くの公園に来た。見覚えがあるな、と思ってあたりを見回していると、先輩が「ここ、部活帰りによく二人で来てたよな」と言った。


ぶわっと、今までの記憶が頭の中に流れ込んできた。今まで忘れていたものが全部よみがえってきた私は、思わずしゃがみこんだ。涙が、あふれてきた。

「美世?やっぱ具合悪いか⁉大丈夫か⁉」

「…っ、雪、先輩っ」

しゃくりあげながらその名前を呼ぶ私に驚きながらも、先輩は私を抱きしめてくれた。

「ここに来たら、思い出してくれないかなって、ずっと思ってたんだ。ほんとに思い出してくれるとは思わなかったけど、よかった…」

先輩が離れて、私は口を開いた。

「雪先輩。迷惑かもしれないけど、言わせて。私、雪先輩のこと、」

「好きだ」

「え…?」

ぽかん、としている私に微笑む彼。そのまま彼の顔が近づいて…


「美世。俺と付き合って。」

「うん…。先輩、大好き。」

私達は、誰もいない静かな公園で、唇を重ねた。


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あの夏。 夜宮りこ @yomiya_riko

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