第8話 学園都市ウルク攻防戦その3

「行くぞぉ!」

 下水道を出るやいなや、シオはその長身をひるがえすようにして大剣を抜き放った。ギラリと白刃がきらめく。


 一度隊伍たいごを組むのかと思ったが、ラルサの軍団兵はそうせず、下水道を出ると次々に武器を抜き放ち、歓声をあげて斜面を駆け上がっていった。この小山の上には帝国兵が布陣ふじんしている。


 思ったよりも高めの位置に出口があった。

 おそらくこの道は脱出路を兼ねていて、下水そのものは途中でどこかに落ちて行く構造だったのだろう。


 突然の背後からの奇襲に帝国兵は動揺した。

 完全に学園都市ウルクを包囲しており、こちらの地点に布陣する彼らは完全に監視のつもりだったのだろう。特に山の背後からの攻撃を防御するような陣形になっていなかった。


 歓声と悲鳴があがる。

 武器を撃ち合う音がそこら中から聞こえてきた。


 シオは思ったよりも身軽に右に左に動いて大剣を振り回し、帝国兵を草でもるかのように斬りふせていた。それにラルサ軍の軍団兵が続く。


「軍師殿! わたしは行きます!」

「わかった」


 シオの戦いの様子にぼうっと見とれていたのだが、姫騎士リルとその一体が近くのルゥ市に向かうことになっていた。さきほどの斥候せっこうの乗っていた馬が無傷だったのはラッキーだった。彼女たちはそれにまたがるとさっと駆けていった。


 蓮の周囲ではラルサの軍団兵の中でもベテランの兵士10人ほどが剣をかまえて警戒をしている。いちおうショックガンを持っているが、予想外の場所からの攻撃で帝国兵は浮足うきあし立っているようだ。


 頂上に向かうと戦闘はほとんど終結していた。

 そこら中に帝国兵が倒れ、陣地を乗っ取ったラルサの兵士がかわりに陣地に入っていた。


 シオが抜き身の大剣を杖がわりに肩で息をついている。

 彼女はこちらに気付くと金色の瞳をほそめてにっと笑った。赤毛が汗で額にはりついている。


「軍師殿、予想以上の大成功だ。帝国軍はちりじりになって逃げ去っている。追撃するか? おすすめしないが……」

「この小山をとるのが目的ですから大丈夫でしょう」

「だな」


 この小山は思っていたよりもずいぶん学園都市ウルクを見渡しやすい地形だった。

 都市の壁はせいぜい10mといったところだが、この小山の標高はもちろんそれより高いのである程度、街の中も見える。一方、魔道大学は見えづらく、よいカモフラージュになっていた。


「あとはリル殿下がよびにいった救援が間に合うか……この陣地をアタシたちが死守するとして、アラルガル伯爵がどこまで魔道大学を守れるか……」

 彼女は心配そうに魔道大学のほうをみた。街からはいくつもの煙があがっていた。


 いままさに魔道大学では熾烈しれつな抵抗がおこなわれていた。

 外壁を奪取だっしゅした帝国兵は街の中になだれこんだ。しかし彼らの予想に反して街の中には逃げ惑う民もおらず、むしろ人の気配がしない。外壁で抵抗していた兵士や魔法使いたちもどこかに行ってしまったようだ。


 帝国兵たちは不気味に感じたがとにかく街を占領するために分散した。

 そのうちの一隊が何となく魔道大学を目指したが、その途中で阻まれることになった。


 魔道大学の周辺の民家が取り壊され、かわりに魔道大学の敷地には急ごしらえの石垣がつくられていた。外からは見えづらいがいくつもの木製のやぐらも建てられていた。

 そこから猛烈に魔法が降り注いできた。


「いかん!」

 帝国兵たちはあわてた。

 隊長が集合の笛を吹く。その間も炎や氷の魔法が降り注ぐ。


「何事だ!」

 帝国軍の指揮官が大声をあげた。黒地に金糸の刺繍をした布の鎧を着こんでいる。まだ若く20代後半くらいだろうか。彼の名前はレイルズといった。


「それが……魔道大学の敷地に石垣が積み上げられ、魔法使いたちが抵抗しているのです」

「何だと!」


 レイルズはちょうど街の行政事務所を押さえて書類を物色しているところだった。この街に攻め入ったもう1人の軍団長はたしか略奪しようと金持ちらしい家に突入していったのを覚えている。


 しかしレイルズはまず書類を押さえにかかっていた。

 その矢先だ。


 魔道大学はこの街の中心にある。

 レイルズは顔をしかめた。

 炎や氷で負傷した帝国兵が仲間に支えられて後退していく。魔道大学の敷地には石垣が積み上げられ、こわされた民家の資材がそこら中に放り投げられている。道も広いとはいえないので攻城兵器も持ち込みづらい地形になっていた。


「……なかなかいやらしい手だな。この街の実質的な指揮官のアラルガル伯爵は実戦を経験をしていないはずだが」

「……別人がいるかもしれませんな」

「ちっとりあえず魔法の射程外に弓兵を集めろ。地道に攻撃するしかない。民家の戸板をはずして盾代わりにするんだ」

「はっ!」

「もう1個軍団はどうした」

「……やはり略奪に夢中のようで……」

「連絡士官を飛ばせ。くそっ貴族のボンボンめが……早くいけ!」

「ははっ!」

 連絡係の士官があわてて飛び出していく。

 蓮の立てた内壁で抵抗するというアイディアは予想以上に帝国兵を困らせていたのだった。


 

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ファンタジー世界の神種族ですが、何か? ~勢いで軍師になり大戦争を切り抜ける!~ Edu @Edoo

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