第7話 学園都市ウルク攻防戦その2

 帝国兵は学園都市ウルクの外壁がいへきを盛んに攻撃しはじめた。

 山の木を切って作った破城槌バッテリングラムを準備し、牽制けんせいのために弓兵が猛烈に矢を浴びせかけてきた。帝国の魔法使いたちは防御用の障壁しょうへきを張る。


 この惑星の魔法はあまり射程距離が長くないように地球人によって調整されている。正確にはこのあたりのセッティングをしたのも蓮である。


 弓の上位互換となると魔法だけが使われることになる。だから魔法は便利だが射程距離は短め、だいたい10mから20mくらいが最も強くなるようになっているのだ。


 そこら中から歓声、悲鳴、激しい破壊音などが響く。

 盾を持った兵士たちが破城槌バッテリングラムを守りながらウルクの城壁にとりつくが、ここぞとばかりに城壁の上から火や氷の魔法が浴びせかけられた。


 激しい炎が渦巻き、氷が兵士の革鎧をきりさいた。


「はじまったな……」

 竜族のシオが大剣を抜き身で肩にかついだ。彼女はリルと似たようなセラミック風の全身鎧を着こんでいる。剣は、地球のスコットランドの大剣によく似ているが、それよりももう少し大きく長い。


 彼女は金色の瞳でここからは見えない城門のほうをながめた。


「ですねぇ」

 蓮も不安を押し隠して言った。

 あのように100回ものシミュレーションで得た作戦に皆は乗ってくれたが、果たして本当に思惑通りいくのかは謎だ。


「とりあえず行こうか、軍師殿」

 シオがにっと笑った。


 蓮もこの世界の甲冑を借りていた。

 セラミックのような質感の小札こざねを何かの革の上に打ち付けた鎧だ。この惑星の重力もあわさって本当に軽く、何なら冬用のパーカーのほうが重いのではないかと思われた。


 シオと精鋭の騎士たちを中心に、ほぼ1個軍団4000人が下水道を通り帝国軍が布陣ふじんする山の背後に出る。同時に近くの街であるルゥ市から救援を求める。

 その間、できるだけアラルガル伯爵と、一部の兵士、学園の魔法使いたちが抵抗をして帝国兵を引き寄せるという作戦だ。


 アラルガルたちの抵抗が破られる前に帝国をできるだけかき回し、さらに救援を得られるが勝負のカギだ。


「行きましょう、レン殿」

 リルも完全武装でそばにいる。


「よし、いこう!」

 蓮も笑顔で答えた。


 シオを先頭に、壁の中に隠されていた下水道への入り口の扉を開ける。

 ガスを警戒してかシオは慎重に火をつけた松明を中に差し入れた。


 どこからか空気が流れてきているのか、松明の火はボウ、ボウと揺れた。

「行けそうです!」

 シオが声をあげる。


 下水道はかなり広く、流れていたであろう下水自体はとっくに枯れていた。

 素焼きレンガか何かで補強されており、10人くらいなら並んで通れる広さがあった。

 

「では、前進!」 

 リルの号令でぱっと抜き身の剣を持った騎士がシオと共に先頭を行く。

 そこから10mほど離れて本隊となる軍団ががちゃがちゃと数十人づつ続く。


(みんな一列になってぎっしりと思っていたがけども……)

 蓮は小声で脳内チップを起動し、データベースをのぞいた。

 AIに現在の兵士たちの動きを解析させて意見を求めた。


(解析しましタ。先頭に立つのが斥候せっこうデス。偵察や警戒を担当しマス。その後、隊長たちが行軍規制しながら順番に行進するようデス。何かあっても混乱しづらく地球でもよくこういう隊形がみられマス)


(へぇー……)


 疑似的なファンタジー風の文明が構築された惑星といっても普通に戦争がある。

 亜人たちは自然にちゃんとした運用を編み出してきたのだろう。


 情報収集衛星やドローンの映像だけをみていても、密着しなければわからないことが多い、と蓮は思った。


 蓮はしばらくそうした想念や考えに沈んでいた。

 それにしても重力が低いとふわふわして若干歩きにくい。もっと重い鎧をもらったほうがいいのではないか……


 その時、前方のほうで金属と金属がぶつかりあうような音が聞こえてきた。

 しかしすぐに静まり返る。


「何事ですか!?」

 リルが声をあげる。


「殿下、シーっ!」

 前方からシオが走って戻ってきた。


「シオ……どちらかというとあなたの声のほうが大きいのでは」とリル。

「すいません殿下、下水の出口を出たところで、帝国の斥候せっこう数名と遭遇しました。倒してしまいましたが、すぐに全軍でて、山の上の帝国兵を奇襲したほうがいいかもしれません。戻ってこないことは気付かれます」シオは真剣だ。よくみると彼女の剣にはぬぐいきれなかった血のあとが見えた。


「軍師殿、どうしましょう」

 リルがこちらに意見を求めてくる。

 そりゃそうか……と蓮は思った。


 正直さっぱりわからない。

 さっぱりわからないが騎士や兵士たちもこちらを凄い表情で見ている。


 肝心のAIもチューニング前なのでこのような判断を要する質問にすぐに答えられない。

 

 しかし、どうだろうか。

 どの道気付かれてしまうのなら、こちらが下水を出たところでマゴマゴしたり、布陣しようとしている間に相手に襲われたら本末転倒だ。


「すぐにシオの言うとおりにしましょう」

 蓮は決断した。

 決断することが重い……しかし今はそうするしかないと思えた。


「よっしゃ! 下水道を出たら各隊ごとに集まれ、集合が終わり次第山の上に奇襲をかける!」シオが言ってまた先頭に走って戻っていった。


「行きましょう! 軍師殿!」

 リルが力強く言った。

 軍団の兵士たちも速足でがちゃがちゃと下水の出口に向かう。


 さいは投げられた。

 蓮も彼らに走ってついていくのだった。





 

 

 


 

 

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