第6話 学園都市ウルク攻防戦その1

 学園都市ウルクは門を閉ざし、ありったけの石を城壁の上に運び上げた。

 黒衣をまとったヴェレス帝国の軍団は、蓮の言った通り学園の正面に現れ、草地を掘り返し、木の杭を立てて陣地を築きはじめていた。


 彼らはびょうを打って何らかの魔法をかけた革の鎧に黒いフード、大きな四角い盾に槍といういで立ちだ。歩兵の軍団を支援する騎兵の群れも見える。


 帝国の黒い旗がはためき、白地の魔道王国ラルサの旗と対照をなしていた。


 ウルクは籠城戦ろうじょうせんの構えを見せていた。

 そして今、城門の上には老伯爵アラルガルが堂々と立ち、帝国兵をにらみつけている。


「レン殿の作戦通りになっているが……はてさて……」

 アラルガルは剣を杖がわりについてつぶやいた。


――数日前、広間で会議が開かれた。

 騎士や隊長たちが呼ばれ、アラルガル、姫騎士リル、竜族のシオなども顔を並べていた。


「さて皆さん……まずはこれが作戦です」 

 蓮は昨晩、寝ずにシミュレーションした結果を披露ひろうした。目の下には色濃いくまが出来ている。


 そんな疲労しきった彼を心配そうに見つめる目がある。

 目があうと彼女は励ますようにウィンクした。しかし彼女の目の奥からは、スキャンしなくても分かるレベルで不安の色が感じ取れた。

 

 蓮は昨晩自室で、設定データベースと衛星リンクを駆使してこのあたりの地形を把握。学園都市ウルクの構造も詳しくチェックした。


 さらに時間がなかったが設定データベースを多少チューニングし、AIの支援を受けて簡単なシミュレーションを繰り返せるようにした。


 戦略・戦術シミュレーションは好きだったが、何分にも実戦はやったことがない。AIにこれまでのヴェレス帝国の記録された作戦を学習させつつ、100回くらいシミュレーションで負け続け、ようやくそれっぽい戦い方をひねり出すことができた。


「まず、学園都市ウルクは籠城戦に入ります。ただし外壁の兵力はできるだけ多く見せますが、100人以下にします」


 ざわざわと声があがる。

「それではそんなにもたずに抜かれてしまうぞ。兵力を外に隠すのか? 外に出た段階で気づかれるはずだ。敵はこちらを見渡せる山の上にも布陣しているんだろう」と騎士の1人が意見を言う。


「この作戦にはまだ続きがあります」

 蓮が言う。

 

「しかし……」

「まずは軍師殿の提案を最後まで聞いてみよう」

 アラルガルが一同をじろりとにらみつけて黙らせた。


「この作戦のキーになるのは相手をできるだけひきつけることです。相手の軍団がこちらに深入りする。それには外壁を与え一気に内部に進撃させるのです……しかし……」


 蓮はちらりとアラルガル伯爵を見る。

「この学園都市ウルクには内壁がありますね」

「……学園そのものか」

「そうです。構造を調べたところ、学園都市ウルクの内部にある魔道大学、それはちょっとした補強で内壁となれます。最初から住民や非戦闘員は魔道大学に避難してもらうのです」

「……しかし相手をひきつけたところで、何らか反撃の手段がないと意味がないんじゃないのかい? あらかじめ外に出すのは無理だと思うよ」シオが言う。


「あらかじめ出しません。この学園都市ウルクには実は水の枯れた古代の下水施設があって、その下水施設を通ることで誰にも見られずに、実は山の背後に出ることができます」

「何だと?」

 一同はざわめいた。


「下水施設? そんなものは聞いたことがないが……」

 アラルガルが髭をなぜる。


 しかしあるのだ。

 ドローンと衛星による音波分析などを駆使して学園都市ウルクの3Dモデルを作り、それをいろんな角度から見た時に蓮はそれを発見した。


「つまり……こういうことでしょうか?」リルが考え考え発言する。「まず籠城ろうじょうの構えを見せて敵をひきつける……敵はわりとあっさりと外壁を攻略する……さらに内部に敵が進撃するが、内壁で食い止める。その間にひそかに山の背後に主力が回っておいて、敵を背後から攻撃する……」


「その通り」

「しかしそれでも数は相手のほうが多いが……」

「近くの都市ルゥにすでに味方の軍団が増援に来ているようです。しかし戦況が分からずそこで止まっています。下水道を抜けたらまずこの軍団と連絡をとって、こちらに来てもらうのです」

「増援が近くまで来ているのか?」アラルガルが驚く。「竜騎士団が壊滅しているので援軍を求めにいくにも……と思っていたが……本国は我々を見捨てていなかったのだな」


「それならいけそうだね」

 シオがニヤっと笑う。

「何だか勝てそうな気がしてきました!」リルも言う。

「さすが賢人……いや我らが軍師殿! その作戦でいきましょうぞ」

 アラルガルがドンと蓮の肩を叩いた。瞬間、アラルガルが痛そうな顔になる。


「軍師殿、予想外にきたえておられるようで……」

「いやぁ、はは……そう、腹筋、腹筋を欠かしてないんです毎日、1000回くらい」

「ほ、ほう……意外に肉体派でいらっしゃる……」アラルガルが少し引いていた。


 蓮はこの惑星の亜人たちは0.65gの重力に適合した筋力、骨格を持っていることを思い出した。


 人類に似てはいるが華奢きゃしゃで、軽い。

 より強い重力に慣れた地球の人類は、亜人からみるとかなり頑丈な生物に見えるだろう。


「さて、それでは軍師殿の作戦に従って、やってみましょう!」

 リルが剣を抜いて宣言する。それにつられるように武装している者は剣を抜いて歓声を挙げた。それは蓮からみてなかなか壮観な光景だった。



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