ひまだ。今日もとしよう。


 ある会社員の男は、何度もみた風景をみながら大きなため息をつく。

それは、仕事に対してだろうか、失敗した自分にだろうか、いずれにせよ、彼は随分と気を落としていた。


 もう、だろうか。



 彼は無気力にも帰巣本能が働いたようで、とりあえず帰らなければいけないと、何度も通ったことがあるかのように見知らぬ道を歩く。彼は歩いているうちに、路地裏にいることを錯覚したようだった。それでも戻ることなく進んでいると、目の前に建物を発見する。木の扉は朽ち、煉瓦れんがの壁は所々日々が入っていて、トタンの屋根は酷く錆びていて、もはやその役割すらも果たせていないように見える。この状況下において、ただの人なら何も考えることなく本能的に引き返すだろう。しかし彼は見つけるべくして、見つけてしまったのだ、建物の壁に書かれた『みせ』の文字を。他にも何か書いてある気がするが、字が掠れていて、暗いのもあり、彼には認識できなかったみたいだった。


「どうせ家に帰っても何もしないしな……」


 そんなことを自分に言い聞かせて みせ

に向かう。彼は、もしかしたら他にすることがなかったからではなく、この みせ に対して好奇心を抱いていたのかもしれない。


 彼が みせ へと入ると、その中央にガラスケースがあることに気づく。いや、彼はガラスケースがあることには気づいてなかったかもしれない。 みせに に入った時には彼の視覚はある装飾品へと釘付けだった。これは

ピアスだろうか。それは、直径5mmほどの純金の円盤の真ん中に紫色の半球が付いているものだった。

 紫色の半球、といってもアメジストのような透明なものではない。それはとても濁っていて、淡く光を放っていた。

 正直、男性、というか人の趣向に合うようなものではなかったが、その男はカッ、と目の瞳孔を開き、欲望のまま手を伸ばす。しかし、手の指の感覚神経が目的物の手前に異物があることを認識したことで彼はガラスケースがあることを知ったようだった。

 彼はピアスが手に入らないことを知ると、

酷く落ち込み、やがて人格を失ったように

あ"あ"ぁ"と壊れた洗濯機のようにうめき出した。

 その姿はとても、人間とはいえないもので、実に滑稽である。

 少し時間が経過し、彼はガラスケースが固定されてないことに気づく。

 そして、彼はグワっと目の瞳孔を開き、ガラスケースを投げる。

その姿は食べ物を見つけた猿のように見えた。パリンとふたつの音がする。ひとつはガラスケースの砕けた音だろう。もう一つは…と、彼にそんなことを考えている余裕はないようだ。獣のように砕けたガラスケースの中からピアスを探す。手の皮膚が切れて出血していることなど気にも止めず探し、必然的にその装飾品を見つける。

 彼は見つけ出したを身につける。その後、彼はとても満足した様子で帰宅した。 

 ここで就寝する。明日が楽しみである。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


目を覚ますと、彼は何か摂取しているようだった。と、突然耳を押さえだす。彼は

「いってぇぇ…」

と耳をおさえる。ここで、彼は耳に何かついていることに気づいたようだ。急ぎ、鏡へと向かう、彼は。彼が鏡を見ると、鏡には何も映っていない。それは偶然か必然か。彼はピアスを認識できなかった。

 彼は痛み、それも耳の痛みで会社を休めるはずがないと思ったのか、いつも通り着替え、家を出る。

 彼はいつも通り道を歩いて、会社にいく。

彼は不思議と笑顔だった。


 彼はいつも通り仕事を始めた。彼は7時から仕事を始め、終わったのは、16時だった。

彼は約8時間の労働を終え、帰路につく。

 彼の帰る姿は、とても軽快であった。

彼はよほど気分がいいのか、店でたくさんのものを手に持っている。そして、買うとなった時に彼は自分のミスに気づく。彼は金を忘れたようだ。彼は大きく項垂《うなだ》れる。が、その時、刃物を持った男が現れる。金を要求しているようだ。彼は男の後ろから覆い被さり、男を床に押さえた。その後、男は遅れてきた紺色の帽子を被った二人に連れて行かれて、彼はひどく店のひとから喜ばれていた。そこで買う予定だったものをもらえたようだった。

 彼は家に帰り、机に向かってなにやら考え出す。しかしその顔は悩みとは正反対の表情であった。

 と、ここで退屈になってきたので、その日の夜まで

 と景色は変わり、彼は耳を朝よりも強く抑えていた。顔は歪んでいる。そして少し経って、彼が何か叫んだみたいだが、よく聞き取れなかった。

 …ここで終わってしまった。いくつか疑問を持ったまま、この日は就寝した。

しかしまぁ、人間の面白い姿を観れた。

非常に有意義な時であった。







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みせもの屋 雷麦 @raimugi0628

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