魔法少女シャインエンジェル

朽木桜斎

欲望を満たすと人間とは気持ちのいいものだ

「むむっ、悪いやつだ! チュイッターにカキコして叩きのめしてやる!」


「むふふ、今夜も違法サイトでエッチな動画を見放題だお」


「彼氏とラブラブ! インシュタに投稿してフォロワーうはうは!」


「ぐへへ、GPSで位置はわかってるんだからな……」


 うーたらこーたら。


 このように、ネットやSNSのおかげで、人間は欲望を吐き出したいだけ吐き出している今日このごろ。


 その様子をだだっぴろい部屋の中心で、ニヤニヤとながめている女性がいた。


 バラ風呂にどっしりとつかりこんで、長い黒髪を水面に浮かばせている。


 立体ビジョンが新しい映像を捉えるたび、目と口角をつりあげてゲラゲラと笑う。


「まあ、釣れるわ釣れるわ。便利な世の中ですね~。人間最高、ぷ!」


 ずんとこずんとこ踊りながら、着物を着た中年男と、赤い顔の小鬼が入室してきた。


「ぬひひ、画霊がれい先生! 今夜も盛況なご様子、なによりでございますよん!」


「人間どもの欲望をたんまり集めて、ウハウハでしね! でしっ、でしし!」


 二人はそのまま踊りながら、女性のところまでやってきた。


「ぬらりひょんさまの言うとおりにやったら、大成功ですよん! ああ、朱の盆ちゃん、そこ、滑りますよ」


 妖怪・画霊は血のように赤いワインをぐびっとすすった。


「ぬひい、これなら世界を掌握するのも、たやすいことですねえ」


「人間がバカで助かったでしっ!」


 ぬらりひょんと朱の盆はあごをはずす勢いで笑った。


「いえ、油断はなりませんわ。これをご覧ください」


 画霊が合図をすると、モニターが切り替わり、ひとりの少女が映し出された。


「先生、このいかにも陰キャなJKが、いったいなんだと言うのでしか?」


 朱の盆がケタケタしながらたずねた。


文車妖妃ふぐるまようびさんがねえ、どうもこの子を使って、わたしを倒そうなどともくろんでいるようなんです」


 画霊はふうっとため息をついた。


「にゃんと! あのババア、まだ生きとったんですか!? 死にぞこないめ、返り討ちだ!」


 ぬらりひょんはダムダムと地団太を踏んだ。


「もちろん、そのつもりですよん。この少女を徹底的に……本サイトの利用規約およびガイドラインに照らして、とても記述できないような仕打ちをですね、雨あられのように浴びせかけて、撃退するつもりですの」


 画霊はペロリと舌なめずりをした。


「ひゃあっは~! それは最高だ! 先生、やっちゃってください! 運営に怒られないギリギリのところで、やっちゃってください! 読者も喜ぶでしょう!」


 ぬらりひょんは楽しさあまって腕を振り回した。


「あはは、楽しい! それこそまさに、わたしの本懐ですよん! 需要のあるところに供給をギブですのはね? ふふっ、ふはははっ!」


 画霊は湯船でわちゃわちゃと肩を揺らした。


「あ~あ、かわいそうなJKちゅわん。骨の髄までしゃぶられるでしょうねえ。まったく、素敵な時代ですよ」


「まさしくわれらのメシウマでし~っ! でしっ、でししっ!」


 こうしてフィクサーにとってはしょうもない動機だが、当事者である人間にとっては自分自身が試されるという、まあ、よくあるパターンの物語は始まったのである。


 おそらく一番メシがうまいのは作者自身であることを、読者諸氏だけは気づいているのであった――

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魔法少女シャインエンジェル 朽木桜斎 @Ohsai_Kuchiki

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