異常の定義

高黄森哉

たった一人の正解者

 僕は部屋の角に座る。追い詰められたように、二つの面を背に、床に座る。……………… みんな僕のことを異常者扱いするんだ。


 異常の定義は流動する。社会における異常とは、集団に共有された常識から外れた物のことを指すからだ。みんなが狂ってるとき、まともな人間がいると、なんでこんな異常事態下で君は、まともでいられるんだ? と狂人扱いされるのはこのためである。


 そんな僕が視線に気づいたのは三か月前。誰かに見られてるような、そんな心のざわめきが、無視できない程に自分の中で成長した。どうもおかしい。一挙一動が他人に支配されてるみたいだ。


 図書館で調べたのはそれから一週間後、土曜日のことだった。医学の棚を検索して、自分の症状を見つける作業である。すると直ぐ、統合失調症に行き当たったのだがしかし、その病気とはある点で違っていた。僕の思考は分裂と言うにはあまりにも明晰だったからだ。


 次に僕が訪れたのは自然科学の棚だ。その中のある本は満足のいく答えを示していた。まず、この世界は三次元であるらしい。そして、その上の次元にも生き物がいる可能性がある。僕らは、彼らに観察されてるかもしれない、とのことだ。


 三次元の上の次元は四次元であるが、四次元とはなんだろう。次元について書かれた洋書を紐解くと、どうやら時間らしい。我々、三次元生物は三次元を移動できる。ならば当然、四次元生物は四次元を移動できる。時間の移動、それはどのようなものなのか、それは僕が丁度、動画を再生するような行為かもしれない。そう思うのは、動画と呼ばれる情報だけの広がりを持つ2次元の上を、三次元人はいろいろな方向から分析できるから。即ち、時系列を無視して逆戻しも可能である。


 じゃあ、視線の正体は四次元人だろうか? しかし、自分の住んでいる世界が三次元だという確証はない。もしかしたら錯覚かもしれない。ホログラムのような幻想かもしれない。だから、彼らの住む次元はより低次元かもしれない。例えば三次元とか二次元とか。


 ともあれ、僕は僕の一挙一動は彼らによって常に監視、干渉されている。我々の上の次元から感知できない形で。そう、きっと文章を読むように、僕たちは今日も分析されている。


 

 

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異常の定義 高黄森哉 @kamikawa2001

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