第11話 天照の降臨(2)

「餓鬼の考えなど、妾にはお見通しじゃ。」

一語一句間違ってなかった、完全に俺の考えを透かしてる?。

「な、なんでわかった?」

またしても突っかかるような形の会話に逆戻りだ。そりゃそうだ。あんなにピッタリ自分の考えを見透かされれば、発言なんて出来なくなる。

「言っただろう?餓鬼の考えを見透かすなど容易い。」

俺の反応が面白いのか、美女が黒く長い髪を片手でなびかせながらクスクスと笑っている。

「あ、貴女は結局誰?」

まずそれだ。それを聞かなきゃ話が始まらない。テンパってても話を進めない限り

何も解決しない。冷静に、冷静に。

「妾か?妾の名は天照ノ巫女神。ようするに神じゃ。」

・・・

・・・

・・・

美女が真顔でなんか言ってる。なんだろう、急に冷静になれた。・・・妄想美女?

「そんなわけあるか!妾をバカにしているのか?」

やばい、心を読まれた。でも、そうか。心を読めるんだよな?読心術?

「占いかなにかやられてる方・・・ですか?」

「おい餓鬼、妾をあまり怒らせないほうがよいぞ?そこの固まってる女を木っ端微塵にしてくれようか?」

あ、怒った。木っ端微塵とか怖!

「わかった、わかりました。神、つまり神様ですね?天照ノ巫女神って

俺でも知ってるめちゃめちゃ有名な神様ですよね?この国のトップオブトップ

ですよね?そこら中に神社があるし、ここもそうだった気がするんですけど。」

てかこの国に住んでてその名前を知らない人の方が少ない気がする。

歴史の教科書にも出てくるし、でもこんな美女じゃなかったな。もっとこう、

オカメみたいだったと思うけど。

「そうじゃ。妾こそがこの国一番の神であり、一番の絶世の美女である。」

自ら絶世の美女と謳う美女。

・・・あ、自分で言うんだ。・・・

「なにか?」

「いえ、なにも。」

・・・

なんだろ、いちいち会話しなくても心で思えば勝手に美女が理解してくるって

ちょっと楽なコミュニケーションの形だな。変な事は考えられないけど。

だいぶ落ち着いてきた・・・気がする。

「天照様、でよろしいですか?」

「うむ。」

よし、名前はわかった。そして誰なのかも多分わかった。

とりあえずさっきから思ってたけど、なんか光ってるんだよな。

神様なのかもしれないし、今時間がストップしてるような現象もきっとこの神様が

やったのだろうと仮定して、とにかく、さっさと謝ってめんどくさい状況を

終わらせよう。心を読まれるからできるだけ本気で。

「天照様、先程は本当に申し訳ございませんでした。つい癖であのような思考をしてしまうんです。でも悪気はないんです。だいたい、読心術なんて普通の人間には出来ません。天照様だと知らずに失礼な発言等、多々してしまい本当に申し訳ございませんでした。」

誠心誠意謝る。とにかく謝る。相手に気持ちが届くまで。謝罪は本気度が大事。

「ふむ、今回はきちんと謝ってるようじゃな?前回とは心の置所が違うようじゃの」

そりゃそうだ、変なことを思えばまた読まれてしまうからな。木っ端微塵だし。

「それでですね天照様、先程からなんとか冷静に思考が回るようになりまして、疑問が何個かあるのですが、質問してもよろしいでしょうか?」

この際、今起こってる不思議現象を楽しんでやろうというくらい気楽になってこれたのか、スラスラと口が動くようになったので、思い切って聞いてみる事にした。

「なんじゃ?せっかくだから聞いてやろう。人間と話すなんてどれくらい前のことやら。」

クルクルと髪を撫でながら美女が不敵に笑う。

あれ?なんかさっきより機嫌良さそう?

「じゃぁ遠慮なく。えっと、なぜ急に、・・・降臨?されたのですか?御神体と言ってもこんな林の中、祀られてもいないし、ほんとにただの岩にしか見えなかったんです。それに、嘔吐程度って言い方は悪いですが、そこに・・・立ちションされた後もありますよね?なんで急に降臨されたんですか?」

この御神体、まったく御神体の形をしていない本当にただの長い岩なのだ。

しかも、程よく林から離れている為、多分立ちションスポットになってるのだろう。ここからでも3箇所はされたなと見受けられる後がある。

今更嘔吐ごときで出てくるか?なんで急に?

「そうじゃな。話せば長くなる。が、今は後回じゃ。今後のことを話そうか。」

先程までニヤニヤしていた天照様が急に真剣な表情でこちらに向き直した。

「今後の事・・・ですか?」

今後ってなんだ?あとは適当に謝罪・・・じゃなかったちゃんと謝罪して清掃して

この不思議現象を終わらせてもらって、帰るだけじゃないの?

「餓鬼、名は?」

「雪村 秋・・・です。」

実体のある神様に名前を名乗るのなんて多分世界で俺が初めてじゃね?って

思えるくらい冷静になってきた。

「そうか。では秋、先程貴様はなんといったか覚えておるかな?」

さっき?さっき俺なんか言ったかな?

「えっと・・・掃除でございますか?」

「そうじゃ。でもその他になにか言っていたな?何でもすると?」

なんだろ。天照様の何でもするってなんかすごく怖いんだけど。てかなんでそんな事言ったの俺!?バカなの!?相手神様!?普段相手にしてる上司共とはわけが違うじゃない!?

絶対めんどくさいこと言われそう!だってそんな空気だもん。

なんとか、なんとか誤魔化せないか。

「・・・言いましたっけ?」

すっとぼけてみた。

「ほう?神に嘘をつくか?なかなかおもしろいではないか?」

美女が不敵に笑う。目が笑っていない。

「・・・いいました。」

無理だ。絶対無理だ。だって相手は神様だもん。天照ノ巫女神だも。

教科書とかのやつだもん。

「わかればよい。」

そういうと天照様はふわりと浮き上がり、俺の目の前に降りてきた。

絶対めんどくさい

絶対めんどくさい

絶対めんどくさい

✕100

くらいは心の中で言った気がする。

俺の内心を読んでか、少し笑いながら天照様が言う。

「貴様には、今から別の世界に行き、とある娘を救ってもらう。」

・・・

・・・

・・・

はいめんどくさいこと言ってるよ。

・・・

・・・

・・・

別の世界?

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派遣社員と巫女の戦國物語 @akihisa2142

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