夜明けと朝日の狭間で

薄っすらと目を開けた京香は、まだ夢の世界に半分頭を預けていた。

故に、脈拍数を表示するモニターと身体が繋がっているのが上手く理解できない。

「おはようと言うべきかしら?」

「こんばんはで良いのかしら?」

ヒノコムの世界で何度も聞いた声。

初めてヒノコムの世界で聞いた台詞。

完全に目が覚めた京香の顔を、団子髪を解いた双子が覗き込む。

白衣を着ているので、看護婦さんかと一瞬見間違えた。

「神様がもう少しだけね、時間をくれたの」

「私達にとっての神様に挨拶しなさいって」

互いに見合って顔を振る。

「これから何度でも聞くだろうし、京香に言ってほしいの」

「お帰りなさい京香。って、誰よりも先に。ただいまって」

京香は呆気に取られて言葉が出ないままでいる。

双子の輪郭が霞んで消え始め、ようやく絞り出した呼び止める叫びは、果たして届いたのだろうか。

 起き上がろうとすると、全体に重みを感じる。

胸元によく知った二人が居る。

変わらずウェーブが掛かった金色のレディ。

涙の筋がくっきりと残る朋。

 こうしてこの世界で再び会えた喜びの津波が京香にぶち当たる。

 もう一人、眉毛を何処かに置いてきた、ミレイさんと呼んでいた初恋の男。

足元に置かれた丸椅子に器用に座ったまま眠っている。

 大変な迷惑をかけた罪悪感はある。実際、搔き回した訳だ。

しかし、今は誰もが京香の目覚めを祝福するだろう。

「ねえ、あなた達がずっと側にいて助けてくれたんだよね?」

まさに今、昇り始めた朝日。

完全に昇った頃に京香が飛び込んだ夜から碌に眠れていない今村家がやってくる。

遠方に嫁いだ姉二人とやってくる。

「ただいま」

そんな朝日を受けて今、京香を見守るように窓際に置かれた双子の人形の銀髪は、黄金に輝いていた。

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虹色夢交流記 アホマン @lainlove

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