蝉の声と夕暮れと安い酒と一と時

白川津 中々

 夕暮れを窓から眺め蝉の声を聞く

 ウィスキーが沁みる。安い、酔うためだけの、色のついたアルコールだが、美味い。暑さの余韻が酒の味を変えるのだろう。落ちかけている太陽も、薄水色の空も、酒をすすめる。


 今日は特に何かある日じゃなかった。朝起きて、食事を作って食べて、買い物へ行き、洗濯と掃除をして、音楽を聞いて、食事を作って食べて、少し眠って、起きて、食事の準備をして、シャワーを浴びてから本を読み、そして今、酒を飲んでいる。日毎、何かに急かされ、焦り、落ち込んだり怒ったりしているが今だけは、ゆるやかな時間に心が落ち着く。


 明日からはきっとこうはいかない。また、何かに急かされ、焦り、落ち込んだり怒ったりする毎日が始まる。だけど、今は、今だけは、全てを忘れて、空を見ていられる。蝉の声を聞きながら、暑さの余韻に浸りながら。

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蝉の声と夕暮れと安い酒と一と時 白川津 中々 @taka1212384

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