星未夜 ゆーも

walk up a hill(Prolog)


見慣れた屋上への階段を登る。

「3人グループの残り物」から「完全に孤立した存在」になって、よく行くようになった場所。

「立ち入り禁止」と書かれた鍵の壊れたドアを開けて屋上へ足を踏み入れると1人の女の子がフェンスをよじ登っていた。

その時私の頭に思い浮かんだ2文字。「自殺」。

あぁ、あの子はこれから死にに行くんだな、と思っても体が動くことはなかった。

その子はもうフェンスの上まで辿り着いて、反対側へ回った。

しかし、その子の動きはそこで止まった。

こちらに気づいたのだろうか。私は逃げるように後ずさる。

すると、その子がおいで、という仕草をする。

そうされてはどうする事も出来なくて、仕方なくその子の所まで行った。

そしてその子は初めて口を開いてこう言った。


「私、貴方に聞きたいことがあるの」


初対面、しかも自殺しようとしている所を見られた人に対して話しかけてそうそう質問なんて、異常者なのだろうか。

女の子は私の返事を待たずに続けた。


「私、今この手を離せば下に落ちるんだけど、離したらいいと思う?離さない方がいいと思う?」


一瞬時が止まった。この子は本当に異常者なのか。生死を他人に預けるなんて。


「私には貴方の生死なんて関係ない」

「うん、そうだね」

「だったら何で質問するの?」

「自殺を黙って見てる人なんて初めて見たから、普通じゃないんだなって思ったから」

「理由になってない」

「興味に理由っている?」


この子が生死を預けた理由、それが「興味」らしい。


「貴方、異常者?」

「あなた程ではないよ」

「、、、とりあえず、そこから降りな」


そう言って手を差し伸べる。

この子は私の手を使わずに、ひょいとフェンスから降りてこう言った。


「、、、あなたも、私に『死ぬな』って言う人なんだね」

「別に知らない人なら勝手に死ねばいいと思ってる」

「じゃあ何でフェンスから降りろって言ったの?」

「一緒に話したいから、、、でしょ」

「それならフェンスの上でも話せるじゃん」

「は、話しにくいでしょ、、、」

「そんなのただの言い訳だよ」


何なの、、、この子、、、


「あなたも結局、死が怖いんだ」


____________________


あの子と出会ってから、私は学校に行けてない。

あの子と会ってから、私は屋上へ行きたく無くなっていた。

あの子の事が頭から離れない。私の学校での居場所は屋上だったから、屋上へ行けなくなったら私は学校に行っても居場所がない。

親が仕事で居ないから家では私1人だけど、ご飯を食べる時以外はずっと自分の部屋に篭っている。

私は自分の部屋が好きだ。誰にも邪魔されない、自分だけの空間。他の居場所を全て失っても部屋に居れば忘れられる。

ぐぅ、とお腹がなったのでキッチンへ向かう。

レトルトカレーをレンジに入れて待っている間、リビングのソファーに座ってぼーっと窓の外を見つめる。

お隣さんの屋根の上で猫がじっと隙間からでてきた鼠を見つめる。猫はそろりと鼠に近づき、鼠を捕まえた。鼠から血が出る。あまりにも残酷な姿にさっと目を逸らす。

私の目の前で、鼠は死んだんだ。

なんでだろう。胸が苦しい。


レンジから、温め終わった事を告げる3度目の音が鳴った。


✧✧✧✧✧


スマホにイヤホンジャックを差し込む。ワイヤレスの方がいいなんて世の中は言うけど、やっぱり有線の方が私にはあっている。

音楽のアプリを開き再生ボタンを押す。

音が聞こえないため音量を上げる。ダメだ。壊れた。

ヘッドホンもあるから急ぎでもない────

と思ったのだが、そのヘッドホンも調子が悪い。

仕方なくヘッドホンを持って外に出る。

いつもお世話になっている修理屋へ向かっていると、先日の女の子がいた。

しかも私が入ろうとしている店の前に。

やっぱり家に帰ろうと踵を返した瞬間にあの女の子が声をかけてきた。


「ねぇ、あなたこの前の人だよね?」

「、、、なんですか?」

「学校、来ないの?」

「行ってないですけど、何か問題でもありますか?」

「屋上にだけ、来てみない?」

「なんでですか。」

「ずっと話し相手が欲しかったの。誰も私の事相手にしてくれなくて。」

「屋上、誰もいない時間帯ならいいよ。」

「やった〜!じゃーまた学校でねー」


そう言ってあの子はかけて行った。

ため息をついて修理屋さんに行こうと思った時ふと思う。

私、なんでいいよって言ったんだろう。

考えてるうちに修理屋に着いて、店員に声をかけられる。

店員に返事をした頃には、私の小さな疑問は忘れられていた。



____________________



次の日学校の屋上へ向かうとあの子がいた。


「ねぇ、私達お互いのこと知らないよね?自己紹介しようよ」

「自己、、、紹介?」

「うん!じゃあまず私からね!」

「え、、、え?」


何だか勝手に話を進められている気がする。


「私は3年生のB組!誕生日は7月27日!名前は、、、うーん、そうだなぁー、、、じゃあ音!」

「おと、、、?しかも名前ってその場で決める物なの?」

「音楽のおんでおとだよ!あだ名ってなんかわくわくしない?」

「えぇ、、、」

「じゃあ今度はあなたの番!」

「えっ、、、えっと、、、2年生のC組、誕生日は12月6日、、、名前ってあだ名じゃなきゃだめ?」

「うん!!!!!!!」


音はまさに太陽のような(?)笑顔で頷いた。


「じゃあ名前は、、、舞、、、かな」

「まいちゃん?可愛い名前だね

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星未夜 ゆーも @yu_mo0629

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