真夏の夜のこっくりさん
坂下真言
第1話
ピローン。メールの着信音が鳴る。本文はっと……。
Re:こっくりさんの件
やっぱり私も参加するよー。何か準備するモノがあれば言ってね。云々……。
「よしっ!」
思わず拳を握りしめる。もう既に半紙に鉛筆で五十音と数字とはいといいえは書き込んである。あとは何が必要かなぁ……。あ、そうだ! 十円玉! ピカピカにしないとね! 確かレモン果汁でピカピカになるって理科で習ったなぁ。
明後日のこっくりさん決行に向けて明日は自転車のチェーンに錆止めをスプレーしよう。汚れるだろうから軍手もしないとね。
面子は四人集まったので一安心だ。よしくん、けーちゃん、たーくん、それに私こと沙織の四人だ。男女も二対二でいいでしょう。けーちゃんが最初参加を渋っていたけどけーちゃんの好きなよしくんが参加するって言ったら悩んでたからね。よしよし。やったね私!
「沙織ー。そろそろ寝なさーい」
「はーい」
お母さんは少し心配し過ぎなんだ。だからちょっとだけ反抗して夜遊びというモノをしてみる。夜の学校に忍び込んで友達とこっくりさんをするんだ。私の小学校は古くて創立百年を超えているらしい。流石に建て直しはして今じゃ鉄筋だけど。まぁ小学校は無駄に歴史だけある。
ウキウキしながらベッドにボフンと倒れ込む。未だ興奮冷めやらず、と言ったところである。何にせよお婆ちゃんの影響で言葉遣いがちょっと大人びている、と言われる事がある。私自身はそう思った事はないんだけれど。あと活字が好きなのでその影響もあるのかな? まぁところどころ言葉が間違っていても気にしない。気にしない。
なかなか意識は落ちてくれない。ソワソワしているのが自分でも分かる。でも今は寝ないと。長時間かけて意識の深くに小さな眠気を見つける。そしてそれを持ち上げて水面に投げ捨てる様にポチャンと落とす。それと共に意識も落ちていった。
夏休みに入って私はもう宿題を終えてしまったので後は日記を書くくらいのモノだ。まぁ流石に夜遊びの事は日記には書けないが。
突然音楽が流れ出す。それは流行りの歌の着信音だった。
「もしもしさーちゃん? 私、けーこ」
「ああ、けーちゃん。どしたの?」
「暇だから遊びに行っていい?」
「いいよー。ついでにお互いの自転車に錆止めを塗ろうよ。肝心な時にチェーンが外れて動けないなんて間抜けだしさ」
「分かったー。何か持っていくモノある?」
「冷たいアイスとか飲み物があると嬉しいかなー」
「はーい。買っていくねー」
「じゃあ待ってるね。アイスが溶けない様に早くねー」
それで電話は終わった。とりあえず自転車を表に出しておく事にする。けーちゃんは家が近所なので、すぐ来るだろう。
案の定けーちゃんはすぐに来た。冷たいアイス持参で。急いで来たのか息が切れている。
「はぁはぁ……溶ける、前に……着いた」
そんな姿を見ているとこちらまで疲れてくるみたいだ。
「はい、お疲れ様」
息を整えたけーちゃんと一緒にアイスを食べる。私はバニラが好きなのでバニラアイス。けーちゃんはチョコミント党員なのでチョコミントだ。食べ終わってお互い田舎の小学生らしく。日焼けを気にせず外で自転車に錆止めをスプレーする。
作業を終えてエアコンの効いた自室に移動する。
「ふぁー涼しいねぇ」
「うん、そうだねぇ」
「肉体労働の後は、キンキンに冷えたラムネ!」
「さーちゃんなんかオヤジ臭いよ……」
ガーン。悲しみを背負ってしまった。まぁ冗談だけど。こうやってコミュニケーションを取る私達は大人から見たらさぞ奇異の目で見られただろう。
そんな事をしていたらいつの間にか夕方になってしまった。けーちゃんは家に帰る時間だ。僅かに残ったチョコミントの香りを楽しみ、部屋に戻る。けーちゃんも宿題は終わらせたらしい。男子二人はどうだろう? よしくんもたーくんも根は真面目だからもう終わらせてるのかな?
いよいよ決行は明日だ。メールで聞いてみたら二人共宿題は終わらせてるらしい。真面目な四人になったなぁ。そして明日は十九時に学校の教室だ。四人は同じクラスだから教室で通じるので楽だと思う。もし違うクラスだったら何年何組の教室ね、と細かく指定しなくてはならないから。
「沙織ー? まだ起きてるのー? もう遅いから寝なさーい」
全くもって過保護だと思う。明日はちょっと驚かせてやろうと思う。それは四人共同じ気持ちだと思う。けーちゃんが帰った後にレモン果汁で十円玉をピカピカにしてみた。満足の出来る光沢を放つソレは明日こっくりさんが入るのには充分に綺麗な部屋なのではないかと信じる事にする。
今日は晩御飯が素麺だったのでちょっとお腹が空いてきたが太るのは嫌なので我慢する。というわけで、おやすみなさいと誰にともなく呟いて目を閉じた。
さて、夕方だ。夏休みなので日は長い。まだ西の空が明るい時間にいろいろと準備をする。変装用にお祭りで買ったお面を被る。視界が悪くなるがいきなり教室に入られても顔はバレないハズだ。一応四人分のお面を用意した。現地で配る事になるだろう。お面を被った四人がこっくりさんをしてるなんてまさにホラーと言えるだろう。ワクワクを隠し切れない。
そして自転車に乗る。昨日錆止めスプレーをしたおかげなのか快調に走ってくれている。そうして目的地、学校へ到着する。
夏休みで用務員さんも居ない様だ。これはラッキー。早速私は非常階段から教室のベランダに出てそこから侵入する。
「あ、もう皆来てたんだ」
自転車が停まっていなかったのでついつい自分が一番乗りかと思っていた。別なところに停めたのだろう。
「じゃあ準備するね」
「よろしくー」
よしくんとたーくんは待ちくたびれたといった感じで椅子に座っていた。皆、心持ち表情が緊張のためか暗い。
「じゃあ皆十円玉に人差し指を……こっくりさんこっくりさんいらっしゃいましたら、鳥居の方へお進みください」
繰り返す事三度。鳥居に十円玉が向かう。皆が一斉にゴクリと生唾を飲み込む。
最初は当たり障りの無い質問をしていく。誰々の好きな人は誰ですか? とか。
「あ、そうだ。俺こっくりさんにコレ聞くんだった」
「何を聞くの?」
私はたーくんに声をかける。
「それはな……」
たーくんがじっくり溜めてこっくりさんに質問する。
「アナタハダレデスカ?」
その瞬間。意識が飛んだ。
「うちの子がおかしいと気付いたのは幼稚園の頃からでした」
誰かが喋っている。誰だろう? 分からない。私達四人は首をかしげる。
「多重人格って言うんでしたっけ。最初は架空の人とお喋りしてるんだと思ってましたが違ったんです」
誰だろう? このおばさん。何か難しい事を言っているのは理解出来る。
「この子の中には沙織、景子、芳樹、拓海の四人の人格が居ました。それがまた増えるだなんて……。先生どうしたらいいんでしょうか?」
白衣を着た人とおばさんは話し合っている。よく、分からない……。頭が、痛い。そうだ私達こっくりさんをしていて突然十円玉から煙みたいのが出てきてそれを吸い込んで……あれ? そこから記憶が無い。結局あれからどうなったんだっけ? 分からない。分からない。分からない。そこでふと気付く。私達四人の影にかくれて狐の面をした子が居る。誰だろう。もう……分からない事だらけだよ。あ、頭が痛い。痛い。痛い。痛い痛い痛い痛い痛いいたいいたいいたいいたいいたいイタイイタイイタイイタイイタイ。
「ワタシハダァレ?」
真夏の夜のこっくりさん 坂下真言 @eol_coffee
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます