長めの考察

 大まかに言えば、うつ状態の主人公が、財務省の官僚として活躍している
ヒロインと再会して。そして主人公はヒロインに去られて、そのヒロインは自殺してしまう。そういう話です。

 最初に主人公が、ヒロインと『愛の新世界』という映画を観ます。この映画は未見ですが、テーマとしては「バブル崩壊後の東京で、たくましくヒロインが生きていく」という内容であるそうです。ヒロインは主人公と、この映画について語り合う事で自分を励ましたかったのでしょうが、上手く行きません。

 この小説のヒロインは、精神的な問題を抱えているようで(客員教授としての授業中、生徒に当たり散らす態度などから伺えます)。それは結局、財務省で働きながらも、日本経済の低迷を解決できないという現状への苛立ちが原因かと思いました。
 主人公とヒロインは、惹かれ合っていたのは間違いなくて、交際によって主人公のうつ状態は軽減していきます。ヒロインに取っても主人公は、心を癒せる存在だったのでしょう。ですが官僚というのは転勤が多いようで、どうする事もできず別れる事となります。

 風俗店に行ってスッキリできた主人公と違って、ヒロインの精神的な苦しみは、特に主人公と別れた後に悪化していったのではないでしょうか。別れる時に、主人公に何も言わなかったのも、うつ状態で苦しんでいたからと考えるのが自然かと。
 高い理想を持って生きていたであろうヒロインは、おそらく挫折のダメージが大きくて命を絶つ事となり。対照的に主人公は、高い理想も無く大学院を辞め、自殺はせずに生きて行けそうです。

 ラストで主人公が、ヒロインの事を幻のような存在と捉えているのは、主人公に取ってヒロインが「青春の象徴」のような存在だったからでしょう。主人公が無くした情熱や理想を、ヒロインは最後まで持ち続けて、その生涯を終えたのでした。
 ですから主人公は、ヒロインの姿を思い出す時は、ワガママな最後の方の記憶ではなく。社会で挫折するより前の、輝いていた青春時代の姿を思い起こしてあげてもらいたいです。