私と彼と桜の下で

さい

第1話

「唯……今日は寝てなよ……」


 そうお母さんは言うと家を出て行った──


 すると、私はベッドの布団に手をしがみつける。


 今日は卒業式だ。

 昨日、37.6度の熱が出てしまい、今日は安静のため卒業式を休んだ。


 そんな自分が悔しい。

 

 気づけば、涙が出ていた。

 その涙は布団に垂れ、濡れる。


「泣かないで我慢って決めたのになぁ……」


 今日でみんなお別れ。

 友達との最後の制服写真、撮りたかったなぁ……。


「悠くんに伝え忘れたなぁ……」


 何もかもが心残りだった。

 それも全部自分が悪い……。


 せっかくの初恋相手なのに……思いを伝え忘れちゃった……。


 時刻はもう九時。

 今頃、卒業式の時間だ。


 今はもう36.4度と熱が下がっている。


 卒業式に行きたい……。

 でも、行ったら熱を移すかもしれない。


 そんな葛藤が頭の中をよぎる。


「そうだよね……寝るべきだよね……」


 まだ、大学があるんだ……大学でこの未練を果たそう。


 私は涙を流しながら、寝た──


 ***


「唯、今日休みだって……」と裕子は言う。

「そうなんだ……」


 私は下を向いた。


 あんなに、好きだった悠くんのこと諦めていいの?

 いつも、唯は悠くんの話ばかりをするほど、好きだった。

 卒業式で告白するとも言っていた……でも、唯は今日は休み。

 別に告白ならいつでもできる。

 でも、『高校の卒業式』に告白は一度しかできない。

 そんなチャンスを逃すことになる、唯は可哀想だ。


「ねぇ、裕子……」

「なに? 千歳?」


 そんなチャンス、絶対に逃しちゃダメだ。


「この後さ──」


 ***


 ん? 何……。


 スマホのブザーが聞こえる。


 別に目覚ましをかけた覚えはない。


 私は目を覚ました──


「何……」


 私はスマホを見ると千歳からだった。


 なんなのよ……。


 私は千歳からの電話を開いた──


『ねぇ、唯!!』


 すると、息の荒い千歳の声が聞こえた。


『何……』


 多分、心配してくれて電話しているのだろう。

 そんなのすぐに分かる。


『今すぐ外に来て──ッ!!』


 私は時計を見るとまだ、十一時だった。


 その時間を見た瞬間、私は目を大きく開く。


 おかしい……まだ、卒業式の時間だ。


 その瞬間、涙が流れ出す。


『なんで……』

『え?』


 私は怒鳴るように。


『なんで、電話してるの!? 卒業式は……』

『そんなのどうでもいいから、早く外に来て──ッ!!』

『良くないって……』

『制服ね!!』


 なんとなく、察しはついた。


『バカ、千歳!!』


 私は立ち上がり、急いで制服に着替える。

 

 ほんとなら、今日着るはずの制服へ──


 よし……。


 私は涙を拭いて、上を向いた。


 そして、私は階段を降り、玄関を出た──


 え………。


「遅ぃ、唯」

「こんにちは……唯……」


 なんで……なんで、なんで……。


「よぉ、唯。お前、今日、休んだんだな」


 なんで、悠くんがいるの──!?


 胸の高鳴りと共に鼓動が早くなる。

 胸が痛い……寝癖……ないよね?


 私は顔を真っ赤にして。

 

「ううん、大丈夫だよ」


 緊張してきた……。


 すると、悠くんが私に……。


「これ、卒業証書」


 私はそれを受け取り、笑顔で「ありがとう」と言う。


「ほら、二人とも……行くよ!!」

「え……どこに?」

「そんなの決まってんだろ? 唯……」

「俺たちだけの卒業式だよ」


 その言葉に私は涙を堪えきれず流した──


「でも、熱うつすかもよ……」

「何言ってんだよ」

「「「バカは風邪引かねぇ!!」」」


 ***


「え……それって……」

「そう、悠くん連れて卒業式抜けて唯の家に行くの」

「そんなことできるの!?」

「やってみなきゃわからないじゃん!!」


 親友の唯のためだ……私、人肌脱ぐよ!!



「ねぇ、悠くん?」


 私は男子と話している悠くんに話しかけた。


「お、千歳か。どうしたよ?」

「あのさ……今日、唯が休みなの……」

「何やってんだよ……あいつ……」


 やれやれとする悠くん。


「だからさ、私たちと一緒に……」

「唯の家にか……行くに決まってんだろ。あの、バカ唯のためにな」


 ***


「綺麗な桜だね……」と悠くんは私に言う。


 私に気遣うかのように千歳は裕子とともに先に歩いて行く──


「うん!!」

「たしか、俺たちが出会ったのも満開だったよな」

「うん!!」


 どんどんと胸の高鳴りで苦しくなる。


 言うんだ……。


 私は覚悟を決めて。


「ねぇ、悠くん」

「ん? どうした?」


 言うんだ……。


「私と付き合ってください──ッ!!」


 私がそう言った瞬間に勢いよく、風が吹き、桜が散った──


「────」


 その桜はとても綺麗だった──


 悠くんが何を言ったのかは、風により、私には聞こえなかった。


 でも、悠くんは私を抱きしめた──


 悠くんはとても暖かかった。


 

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